2016.12.15

鹿児島県大隅半島の開放型福祉農園 『花の木農場』の取り組み

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見渡す限りのお茶畑が目の前に広がっている。手入れの行き届いた畝のひとつひとつに、この農園の几帳面さがにじみ出ている。目を凝らしてよくみると、所々に人がひとり・ふたり・・・害虫に侵された赤茶けた葉っぱを一枚一枚、一生懸命に手で摘んでいるのが見える。まるで時が止まってしまったかのような静寂さ。気持ちの良い空気が張りつめている。

ここは鹿児島県大隅半島の最南端、根占町の『花の木農場』だ。社会福祉法人白鳩会と農事組合法人根占生産組合が一体となり障害者たちが自身の能力を生かしながら社会とつながっていくことを目指す” 開放型福祉農園” を運営している。52,000㎡の広大な土地にはお茶畑の他にもニンニク・水耕栽培によるホウレン草、牛や豚が放し飼いにされている。

「運・鈍・根」をモットーとする理事長の中村隆重さんの教え――人生を例えるならば「運」を味方にすること、「鈍」他人から何を言われてもいちいち反応する必要はない。時には鈍感でいることは大きな力となる、「根」どんなに非難されても忍耐強く根性が座っていれば乗り越えることができる。まさに賢者の教えである。

来年、45周年を迎える同農場では、中村さんと共にジャンギィ・ヘンケルさんが蘇鉄の植樹を行った。「自分の分身がここ日本の最南端に誕生した! 我が子の成長を見届けるためにも、これからは定期的に訪れなければ!」と友情を誓ったのである。

 

写真 『花の木農場』の入口に現在ハーブ園をこしらえているが、そこに” ヘンケルさんの木” を植えた。日仏の交流を誓い合った証しでもある。整然としたお茶畑では障害者たちが黙々と作業している姿がみえる。早稲田大学法学学術院教授・社会安全政策研究所所長の石川正興教授(右)の計らいにより、今回” ジャルダン・ド・コカーニュ” と” 花の木農場” がはじめて出会えるきっかけを与えて下さった。「妙なる大自然の佇まいと、心温まる人々の歓迎を体験することができました。人生の不思議さが凝縮された、実に「濃密なとき」に触れ合うことができ、得も言われぬ幸福の余韻に今も浸っているところです」石川教授のお言葉より。

 

 

vin et culture (2016.12.15)  |  未分類  | 

2016.12.15

『日本更生保護学会』の第5回大会に参加した

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去る12月10日、早稲田大学の大隈記念講堂大講堂で『日本更生保護学会』の第5回大会が開催された。これは毎年恒例の学会で、日本更生保護学会が主催し早稲田大学社会安全政策研究所(WIPSS)が共催している。今年はフランスの就労支援団体『ジャルダン・ド・コカーニュ』の代表、ジャンギィ・ヘンケル氏を講演者にお招きし3時間半にも及ぶシンポジウムが行われた。

『ジャルダン・ド・コカーニュにおける就労支援について~「犯罪を行った者」に対する就労支援を中心に~』というテーマで約1時間の基調講演ではじまったこのシンポジウム、ジャルダンでは犯罪を犯した人たちを”社会的弱者” の一員とみなし、長期失業者やDV被害者、薬物依存症・・・など、あらゆるカテゴリーの人たちと混合させて自然農業による野菜作りで自立支援を目指している。1991年の設立以来、25年間、刻々と社会状況が変化する中で、今日では全国に130ヶ所、約4300人近い人たちが社会復帰を果たしている。

続いて私は2011年にフランスの国営TV “France 2″ が放映した「モワイヤンブリ農園」と呼ばれる更生保護施設の取り組みを紹介したドキュメンタリーを映像と共に紹介した。ここでは18人の受刑者たちが残りの刑期を刑務所以外の場所で全うしている一つの成功例だ。農業や牧畜によって生きることの意味や自然との共生、採れた野菜やミルクを販売するなど地域住民との交流によって更生してゆく彼らの姿を追ったドキュメンタリーだ。

孤立した人たちを排除することは社会にとって何のメリットにもならない。罪を犯した人たちも” 自分の過ち” を全うした後には、また社会の一員に戻らなければならない。そんな彼らを更生し自立へと導くためには許容範囲を超えた劣悪な環境下での刑務所に隔離しておくべきか? それとも人間本来の尊厳を引き出すために徹底した職業訓練によって社会へと還元すべきか? その答えはもう見えている。

 

写真 早稲田大学のキャンパスで。クリントン大統領や中国国家主席の江沢民や胡錦濤、日本の小泉純一郎首相など、歴史を動かした錚々たる人物が登壇した同じ大隈記念講堂大講堂で講演! 「大変光栄なこと、気持ちも引き締まる」、そうコメントしてくれたヘンケルさん。でも素顔はとてもフレンドリーで人懐っこい。

 

 

 

 

vin et culture (2016.12.15)  |  未分類  | 

2016.11.24

クリスマスも間近、あ~キャビアも生ガキも食べたい!

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見事なチョウザメ、そしてゴージャスな生ガキ! クリスマスを飾るにふさわしい風物詩、フランス人が大好きな食材だ。じっくりと熟成されたキャビア、そのとろけるような食感がたまらない。キリリと冷やした生ガキを白ワインでキューっといただく! まさに至福のひと時である。

先週、パリのホテル・ムーリスで開催された「LES PLACES D’OR」というプロ向けのデザイン& 高級パッケージの見本市に出かけた。会場中央でひときわ目立ったのが、このブース。思わず「お~、試食ができる!」と大勢の人たちが取り巻く中、よくよく目を凝らしてみると何とすべてが「布製」だ。それはイミテーションを超えて、もう限りなく本物に近い芸術作品である。日本でも大衆レストランの軒先には蝋で創った料理サンプルがたくさん並んで訪れる人たちを目で楽しませてくれるが、こちらはもっとリアル。手に取ってみると作者の” 温もり”さえ 感じられる。

クリスマスの夜、こんなオブジェを部屋に飾って過ごすのも楽しいかな・・・・。でもお腹がグググッ~~~~と鳴ってしまいそう!

写真   「LES PLACES D’OR – Salon du design & Packaging de luxe」は年に一度、業界関係者が一堂に出会える展示会。ジュアリーや香水、ショコラなどひとつひとつ職人が丹念に創るパッケージは、もうそれだけで芸術作品といえる。http://www.lesplacesdor.com

 

 

 

vin et culture (2016.11.24)  |  未分類  | 

2016.10.17

” Made in PARIS ” って?

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” PARIS ! “という言葉を聞いただけで「行ってみたい・ステキ・お洒落・・・」と思ってる日本人は少なくない。でもこれは何も日本人だけじゃなくて世界中の人たちも同じように憧れているらしい(?!) アメリカ人やイギリス人のようなアングロサクソン系が特に顕著で、彼らの出版する「パリ生活の秘密」とか「誰も知らない私だけのパリ」などといった本は飛ぶように売れている。でも実際にパリに住んでみると街は汚いし、ストはしょっちゅうだし、最近では治安も深刻だ。でもなぜ、世界中の人たちはパリにあこがれるのだろう?

1920年代、第一次世界大戦が終わった直後からウォールストリートの世界大恐慌が始まるまでの9年間を”アンネフォル “と呼んでいる。 “狂喜の時代”。あまりにも残虐で悲惨だった第一次大戦が終焉し、人々は戦争の恐ろしさにおののき傷つき、絶望の淵から這い上がろうと笑いを求めてバカ騒ぎに明け暮れた。カフェのギャルソンたちのマラソンや自転車でフランス全土を横断するツール・ド・フランス、様々な娯楽やスポーツが誕生した。芸術分野ではジョゼフィン・ベーカーのような黒人のダンサーやアメリカのジャズなどがもてはやされ、一方アートの世界でもピカソや藤田、モジリアニなどモンパルナス派、またロートレックのようなモンマルトル派と二分化された。ヘミングウェーやギャツビーなどパリをこよなく愛するアメリカ人は日夜パーティーに興じ、すべてが許された時代だった。パリは空前の好景気に沸き、自由を謳歌するパリの人たちや国境を越えたあらゆる人種がひとつになり、束の間の興奮に酔いしれた。まさに狂喜の時代。そんな幻影が今でも「パリ」を支配しているのだろうか。それが世界中の人たちにパリが魅惑的な街と映る所以なのだろう。

そんな「パリをもう一度!」という訳ではないだろうが、でも観光客を呼び戻そうとパリ市長自らが音頭を取ってパリの宣伝に余念がない。でもこうして、ひとつひとつパリの職人たちの技を見るにつけ「パリをブランド化」している戦略はあながち間違ってはいない。思いもかけない「パリらしさ」に出会えるとってもパリらしい展覧会。入場無料、パリに来る機会があったら是非のぞいてほしい。――こんな、たった短い3行のフレーズなのに” パリ”という言葉を実に9回も使った! やっぱりパリは宣伝効果のある街であることだけは確かである。

 

写真  パリ市庁舎に併設するミュージアムで開催されている展覧会のポスター、パステル調の色合いが実にパリらしい! バッグや靴などの革製品に始まり、地ビールや自家製アイスクリーム、PARISをブランドに見立てた紅茶やチョコレート、パリ20区の水を入れるためのキャラフなどなど、著作権はパリ市が持ってるからきっと良い収入源になるのだろう。

 

vin et culture (2016.10.17)  |  未分類  | 

2016.10.13

第三回『ソーシャルファームジャパンinつくば』 が開催

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今年で3回目を迎えた『ソーシャルファーム・ジャパンinつくば』が10月8~9日の二日間、つくば国際会議所で開催された。今年のテーマは「就労困難者の仕事づくりを経済の視点から考える」と題して「我が国のソーシャルファームの在り方」「農業と福祉でどう経済を回していくのか~日本とフランスの事例をもとに」「デザインの力で製品を商品に変える」「ソーシャルファームが経済的に自立するためには何が必要か」という多角的な見方でソーシャルファーム関係者の取り組みが披露された。

何らかの理由によって働くことが困難な社会的弱者たちに働く場を提供するためのビジネスを行う企業を”ソーシャルファーム”と呼んでいるが、私は自然農業で就労支援を行っているフランスのNPO『ジャルダン・ド・コカーニュ』を2009年より取材し日本に紹介し続けている。今年もまた、その代表をつとめるジャンギィ・ヘンケルさんと共に来日した。

「日本人は高福祉国家を名乗るフランスでは潤沢な補助金が国から支給されていると思っているかもしれないが、それは間違いです!」。そんなストレートな一言ではじまったヘンケルさんの講演、景気が悪化している今のフランスではNPOであっても普通の民間企業と同じように資金繰りに奔走しなければならない。それには社会的意義があり、多くの人たちを巻き込み、革新的なアイデアで社会をイノベーションしていくことに投資すべきだという。そんなヘンケルさんの経営者としての視点は日本の現場で働いている人たちにも勇気と希望を与えてくれたのではないか? 「お金の話をすることは決してタブーではない」という意識になってくれれば今回の私たちのミッションは遂行できたのではないかと思う。

 

写真 『第三回ソーシャルファームジャパンサミットinつくば』委員長の上野容子氏と、昨年パリ郊外のジャルダンで研修した『鹿嶋パラダイス』の蓜島一匡さん、ヘンケルさんと私。NPO法人「自然生クラブ」では知的身障者たちと共に暮らしながら産業としての農業ではなく持続可能な農業地域循環農業を実施し、約120軒の野菜会員に宅配している。労働の合間には演劇やアート活動に精を出している。『自然生クラブ』の施設長の柳瀬敬さんとヘンケルさん。フランスの哲学者シャルル・フーリエの”空想的社会主義”から学んで自然生クラブを立ち上げたという柳沢さんは、フーリエの故郷でもあるブザンソンで育ったヘンケルさんと意気投合。ヘンケルさんもまたフーリエの教えからジャルダンを立ち上げた。「まさか筑波山のふもとで仏の哲学者フーリエの話が出るとは想像もしていなかった!」と興奮気味。9月に出版されたソーシャルファームジャパンのメンバーによる『ソーシャルファーム~ちょっと変わった福祉の現場から』(NPO法人コミュニティシンクタンク あうるず編) を掲げる理事の上田拓弥さんと畑山昌平さん。

 

 

vin et culture (2016.10.13)  |  未分類  | 

2016.10.05

ブルターニュの” グレー”

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「好きな色」というのは誰にでもあるのだろけれど、私が何と言ってもこの色、というのが”グレー” だ。フランスに住み始めてから色彩に対する感覚が変わってきたような気がする。以前、日本にいたころは割合と原色や明るい色を好んでいたように思う。勿論、年齢的にも若かったし、フレッシュできれいな色を美しいと思っていた。しかし、最近、グレーの微妙な味わいにとても魅かれる。ブルーががったグレー、ベージュががったグレーベージュ、白色ががったチャコールグレー、墨のように黒いダークグレー・・・。遅い夏休みということで、ブルターニュ地方の海岸沿いを訪れた。

低く垂れこめた灰色の雲の下から時々太陽の光がのぞく。海面に反射する海原はまさにブルーの水彩絵の具に水をたっぷりと含ませたグレーを混ぜたような色。海岸に打ち寄せる白波がリリーフを描く。一方、建物に目を向けると花崗岩の堅固な石で建てられたがっしりとした家並みが美しい。巨石文化の地でもある。ケルト文化の影響から、ここは同じフランスでも、むしろイギリスに似ているような感じがする。

そんなブルターニュ地方で見たグレーのグラデーションを堪能してほしい。

 

写真 ブルターニュの玄関でもあるレンヌという街から西へ小一時間、ビリエという半島の突端にある静かな港町。”Domaine Rochavilaine”で過ごした2日間。様々なグレーに出会う旅だった。

 

 

vin et culture (2016.10.05)  |  未分類  | 

2016.10.04

パリの新名所、ロシア正教の場違いな建物

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パリのアルマ橋から見渡すエッフェル塔はことのほか美しい。私がパリで最も好きな場所のひとつであるのは間違いない。いつもケ・ブランリー民族博物館に行くときには、わざとメトロのアルマ・マルソウ駅で下車して歩いて橋を渡る。そうすればエッフェル塔と並んで1920年代のどっしりとしたアールデコ様式の国立気象観測所の建物が対で堪能できるからだ。ところが、な、なんと、そこにあるはずの気象観測所がロシア正教会に建て替わっているではないか! しかも太陽の光に反射してギラギラと輝く銀色の巨大な鐘楼が目に飛び込んでくる姿はもうショックを超えて絶望に近いものだった。その場所をわきまえない巨大さに、思わず絶句してしまった!!!

近くにいたふたりの若いフランス人男性がシゲシゲトこの建物を見ながら建築談義をしている。「ボンジュール、メッシュー、突然、ぶしつけな質問を許してほしいのですが、いったいこの建物は何なんですか?」「これはロシア大正教の新しくできた教会です。何て見事なんでしょう。銀色とベージュのハーモニーは実に美しい」「ここに教会を建てて、その周りにロシア図書館やレストラン、娯楽施設を建設する予定だとか・・・」「ロシアのプーチンの前ではフランス政府は物を申せない。何でも売ってしまうのですよ!」と、あっけらかんに話してくれた。

それにしても・・・である。パリの街が中国やカタール、ロシアの資本にどんどん侵されていることは知っている。フランスではカトリック教の次にイスラム教が台頭しているのも移民や難民の数の多さを見れば一目瞭然だ。かつては「自由・平等・博愛」精神の下、外国人亡命者たちを積極的に受け入れていたフランスだが、今ではそんな余裕すらもない。” ある程度の外国人を受け入れることは「文化の交流」という意味では幅広い知識を得るのには欠かせないポジティブな要素である。” そう言ったのはフランスの知性、社会学者のエマニュエル・トッドだが、しかし現在の行きすぎた状況を見る限りナショナルアイデンティティーの喪失・外国人アレルギー・排斥運動が毎日のように起こってもおかしくない。

宗教や文化の違いからくる摩擦は人間関係を荒廃させる。ミキシテ・ソシアル=ダイバーシティー、差別や隔離のない社会的共存性をベースに宗教・性別と無関係に人々が自由に行き来できる社会を私は理想だと信じてきたが、こうした相手の文化もわきまえず土足でドヤドヤと上がってくる人たちを見ていると、そんな理想が最近ガタガタと音を立てて崩れていくような気がする。

 

写真 真っ青に晴れ渡った空に、ひと際輝くロシア大正教の建物、エッフェル塔が小さくかすんで見える。

 

 

vin et culture (2016.10.04)  |  未分類  | 

2016.09.21

所、変われば・・・・

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メトロのホームで危険な行為をすれば命取りになる・・・・。とくとご覧あれ。説明の必要もないだろ!

 

写真 パリのメトロで見つけたポスター。思わず立ち止まって笑ってしまった! 世界中の人たちが見てわかるポスターこそ優れものだ!!

 

vin et culture (2016.09.21)  |  未分類  | 

2016.09.19

「Journees Europeennes du patrimoine」――普段見れない文化遺産が一斉に公開

 

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テロの厳戒態勢が敷かれているここフランスで、毎年恒例の『Journees Europeennes du patrimoine』(ヨーロッパ文化遺産ディ) が9月17&18日の二日間、予定通りフランス全国で一斉に行われた。これは普段は非公開の文化的価値のあるモニュメントや建物を二日間限定で一般の人たちにも公開しようという催しで、1984年の初回以来、大変な人気を博している。今年は全国17000ヶ所の文化遺産が一般公開されて、約1200万人近い人たちが訪れている。昨今のテロの影響で入場には警官も多数出動して重々しい雰囲気、入口では身分証明書の提出から、ひとりひとりの持ち物検査が入念に行われるなど、例年以上にチェックが厳しい。

日本の国会議事堂にあたる” Assemblee Nationale ” (国民議会) を訪れた私は、朝、9h30からのスタートに7h30には現場に到着。というのも一昨年、訪ねたエリゼ宮(大統領官邸)では8時間かけて並んだ苦い経験があるからだ。しかし、今年はテロの脅威からか観光客が激減していることもあり、訪れる人の数も少ないように感じる。2時間待ってすんなりと中に入れたのは本当にラッキーだ。今年のテーマは「文化遺産と市民権」。イスラム過激派による内戦からシリアやイラク、アフリカなどの難民が押し寄せている現在のヨーロッパに於いて、改めて自国の歴史・文化をもう一度見直し、仏国民としての誇りを取り戻そうというメッセージが伝わってくる。

議事堂の心臓部でもある本会議場はTVなどで中継されて目にするものよりも実際にはとてもコンパクト。しかしその議長席と演壇をまじかに見ると、まさにこの場所でフランスの政治が行われている〈現場〉であることにちょっと胸が高鳴る。歴代の国会議員たちの口角泡を飛ばしながら左右がお互いに主張する光景がまぶたにチラつく。そんなリアルな体験に、まさにフランスの二院制政治の大舞台に今こうして自分が立っていられることに不思議な感覚を覚える。こうして文化遺産を潔く公開し、一人でも多くの人たちにフランスの底力を見せることがテロリストの脅威に屈しないフランス人のプライドでもあり、懐のでっかさでもあることを感じた一日だった。

 

写真 赤いビロードのベンチシートの最前席には「大臣席」と書かれた一角がある。歴代の政治家たちは一度はここに座ることを夢見ているのだろうか。セーヌ河岸より見た国民議会の正面、ブルボン宮の建物を使っている。初代の議長を務めたジャック・シャバンデルマスの名を記した金のプレート。隣接するお洒落な” 仏共和国グッズ “を売るショップのショーウィンドウには赤白青のフランスの国旗に見立てた実用的なマグカップなど、フランスっぽいお洒落なデザインが多い。

 

 

 

vin et culture (2016.09.19)  |  未分類  | 

2016.09.11

次世代の光アートをクリエートする石井リーサ明理さんの新たなる挑戦

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光が放つ不思議な浮遊感、照らし出される角度や加減により幽玄の世界を演出したり、あるいは色彩の寒暖によって一瞬のうちに無機質な空間が生き物のように生命を帯びてくる。” Concepteur lumiere ” ―すなわち光の概念を創りだすクリエイターというのが石井リーサ明理さんの肩書である。この分野ではすでにパイオニア的存在として世界的に有名な石井幹子さんを母親とし、現在ではパリと東京で二人三脚で仕事をしている。その作品郡は日本国内では「東京ゲートブリッジ」や「東京タワー」「銀座の歌舞伎座」などのライトアップに代表され、また海外では「メッツのポンピドーセンター」や「ローマのコロッセウム」「ベルリンのブランデンブルク門」など光アートのパフォーマーとして数えきれない作品で世界中から高い評価を得ている。

光の芸術といっても日本ではまだあまり馴染のないものであるが、ヨーロッパではずっと昔から夏の夜空を飾る風物詩の花火と共に生活の一部として取り入れられてきた。たとえば高級ジュエリーのブティックではその光の当て方次第で輝石は120%の輝きを放つことができる。また美術館に飾られているオブジェも光の加減や向きによってアーチストの芸術性を余すところなく堪能できる。「アーチストが絵筆を持つように、私たちは光を自由自在に駆使することによって建物やモニュメントに息を吹き込むのです。」とリーサ明理さん。たとえば尾道にある天寧寺の三重塔、3色の異なった光をライトアップすることによって、また昼間とは違ったまったく異なる幻想的な建物に早変わりする。その様は感動的である。

毎年、9月に開催されるパリの国際インテリア見本市「MAISON & OBJET」には世界中からインテリアデザイナーや建築家が大勢訪れる。光の芸術がインテリアの一部として果たしてどう使われるのか? そんな未来への可能性を探ってほしいと主催者側からの要請で今年は4回目の参加だ。テーマは” WHAT’S LIGHTING DESIGN ? ”

今回は日本の高度な世界最先端技術を駆使した住友化学が開発した高分子有機ELによる照明が目を引く。世界で初めて電極以外のすべてを塗布技術により作成した10cm四方の照明パネルは” 目にやさしい自然な光 ” が特徴だ。そのほかにもオフィス家具のオカムラと共同で働くオフィスの環境を光によって癒しの空間に変えようと、コンピューターのルーターでオフィス内の光を感知して朝は白い光・昼はオレンジと徐々に変化させていくことによって人間の体のバイオリズムに反応させながら疲れを取り除く効果に期待が高まる。

70年代、オイルショックの影響で照明デザインは電力の浪費と受け取られ日本国内では不遇の時期を過ごす一方、「日本に仕事がなくても地球上のどこかにはあるはず」とオイルマネーで建設ラッシュに沸く中東をはじめ海外での仕事をこなし実績を作っていった母親の石井幹子さん。そんな彼女のDNAをもつ娘のリーサ明理さんのパワフルで繊細な感性が次世代の照明技術によって、世界中の建築や都市計画のコンセプトをどんどん変えようとしている。

 

写真 トレードマークの長い黒髪にキリリとした眼差しが印象的なリーサ明理さん。住友化学が開発した高分子有機ELは” 優しい光 ” が特徴。花をイメージした照明の前で。朝日から夕陽まで一日の光の変化が山の稜線をどう浮かび上がらせるかをテーマにしたインスタレーション、まさに光が変化してゆくにつれリラックスさせてくれる。高分子有機EL技術を用いた照明は日本古来の洗練された色調を表現できる。

 

 

vin et culture (2016.09.11)  |  未分類  | 

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  • 南谷桂子
    vinetculture@wanadoo.fr
    フランス在住
    株式会社ワインと文化社
    代表取締役・ディレクター

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