2015.08.01
食の旅の2日目は『NOMA』、今やデンマークのガストロノミーを代表するこの店は今年の1~2月まで期間限定で東京のホテル・マンダリンオリエンタル内に『NOMA Tokyo』をオープンしたからご存知の方も多いだろう。そんなNOMAが何と来年一月から10週間、今度はオーストラリアのシドニーに店をオープンするという。
従業員全員(皿洗いからジェネラルマネージャーに至るまで!)、家族同伴で民族の大移動のように移住するのはとても素晴らしい発想だ。若いスタッフたちも家族同様に扱ってもらえればきっとやる気も出ることだろう! この辺りのレネ・ゼレピの手腕は見習わなければならない。世界中の国籍の人たちを従業員として雇い(なぜかフランス人はいない! わかる気もするが・・・)、世界中の人たちをターゲットにビジネスしている。「コペンハーゲンというところは北欧の人間にしか理解できない特殊性があり」と、前置きをしたうえで、冬は雪に覆われているから夏の間のほんのわずかな期間しか商売ができない。しかも食材が乏しいから、その分保存食を充実させないとシーズンオフには耐えられない。(今は発酵にこだわっており、今回はその発酵庫も見せてもらった) そのためには発酵文化を原点に持つ日本人料理人を雇い(ジュン君という素晴らしい料理人がいる!) 味噌・醤油だと発酵技術を学ぶ。そして定期的に海外に移住して、その地の食材をふんだんに学び・使い・料理人スタッフたちと全員で新しい料理にチャレンジしていく。そんな連帯感あるスピリッツに新しい料理人の姿が見て取れる。自分たちの置かれている逆境をすべてポジティブに変えてゆくところも理にかなっている。「レストランはエンターテイメント、常にイベントを作り出していかなければならない」とレネ。そんなところにNOMAが世界的に注目されている理由があるのだろう。
そしてもう一つ、世界中の客をターゲットにしていると述べたが、コペンハーゲンまでわざわざ来れない客には自分たちがその地域に乗り込んでゆく。これって「屋台ビジネス」ではないだろうか。今、フランスでも屋台(仏語でRestaurant ambulantと言うが「動くレストラン・移動するレストラン」という意味) がモーレツにはやっている。屋台とは言い換えれば大衆文化の発祥だ。一人でも多くの人にNOMAの料理を食べてもらうためには自分たちがその場所に乗り込んで出張し、その国の大衆にアピールすること。NOMAは決して大衆の値段じゃないけれど、でもコペンハーゲンまで飛行機に乗っていくことを考えれば安上がりだ! レネはそういった意味では、かなりしたたかなビジネスマンなのかもしれない。
写真 コペンハーゲンの本店でいただいた料理はデンマークの食材を100%フューチャーしたもの。まず最初に出てきたのは「蕪とグリーンストロベリー」。蕪のしっかりした味がとてもフレッシュ。緑色の苺もえぐいかと思ったら、とても優しい味。フルーツというよりも野菜感覚だ。”CHUT LIBRE”というフランス産のスパークリングワインをアペリティフに。自家製のパンはカリッとした食感が香ばしい、バージンバターと一緒に。キャベツの葉とグリーンストロベリーのジュ。帆立貝の煮汁を皿に塗り込み、それに蒸したハーブや生のハーブを並べて手で食べる。皿についた帆立の煮汁もふき取るようにして食べるのがコツ。2014年12月に植えたオニオンクロスは今が食べごろだ。グリーンピースと昆布のような海藻から作ったジュレを細かくスライスして凝乳クリームを中に封じ込めた。見た目にも鮮やかなエディブルフラワーのタルトは海藻を生地に入れてチュイルのようにさくっと軽めに焼いたタルト風。千葉県の寺田本家の清酒 “醍醐のしずく”はちょっと甘みのあるお酒、NOMAの料理にとてもよく合う。デンマーク産のジャガイモをオニオンクロスで包んで蒸し焼きにしたもの、ちょっとカイワレ大根のような辛みがある。フレッシュクリームをベースにしたテリーヌはちょっとお豆腐のような食感。最初に出された木の枝、いったい何に使うのかと思いきやフォーク代わりに刺していただく。これも新しい食べ方の提案だ。イースト菌をベースにしたブイヨンにナスタチウムという南米産の葉でくるんだ甘海老はほとんど生、酸味の効いたブイヨンと海老のオイリーなねっとり感が絶妙なバランスだ。キャベツの葉を乾燥させてキャラメリゼさせた薄いチュイル、中には”海のアスパラガス”と呼ばれるクレッソンのペースト。南仏ルシオン地方のドメーヌ・マタサの”matassa”と呼ばれる白ワイン、アレキサンドリア・マスカット種を使ってビオダイナミック製法によって作り上げた甘くてフレッシュなワイン。ノルウェー産のハマグリはクレッソンと共に生で食す。東京でも大好評だったアンキモは冷やして薄切りにしたもの。ホワイトアスパラガスを表面だけグリルして薄切りに並べ、デンマーク産キャビアとエディブルフラワーを添えて、日本人料理人のジュン君がテーブルでソースをからめてくれる。ビジュアル的に美しい一皿だ。四葉のクローバーのような形をしたエディブルフラワーは出汁と一緒にちょっと箸休め的な役割だ。フランスのジュラ地方の白ワイン”Arbois Pupillin”はサヴァニアンというブドウの品種はとてもドライな味が印象的。オマールエビとナスタチウムのロースト。レグリス(甘草)風の真っ黒いベジェタブルフラワー、ちょっと粘着性のある食感が歯にこびりつく感じ。炭火でグリルしたオーソーブッコ(骨の骨髄)。デザートはベリー系フルーツとグリーンベジェタブルを一年間マリネしたヴィネガーを使ったフレッシュクリーム。口の中に入れるとふわっと溶けてしまいそうなスフレのような不思議な食感のシェーブルミルクのヨーグルト、中にはルバーブが。”chinuri”というフィルターをかけていないデザートワインは6ヶ月間発酵させたブドウを使った甘くデリケートな味わい。ちょっと苦味の効いたヘーゼルナッツのオイルをソースにしたクリーム。森をイメージしたチョコレートとエッグリキュール。エチオピア産の豆を使った酸味の効いたコーヒーは別のサロンでサービスしてくれる。中庭やオフィス内と至る所でハーブを育てている。レストランの外に設けられたラボ、中でも発酵庫はご覧のとおり様々な食材を使って発酵を試みている。総勢70名の世界中から集まってきたスタッフたちが働く厨房は活気に満ち溢れている。みんなとても若い。これだけ手の込んだ料理を作るためには料理人だけではなく丹念に料理の説明をしてくれるサービス係の役割も重要だ。全員が東京に行った。スタッフと再会を喜ぶ娘、メートルドテルのジェームズを囲んで全員がウェルカムしてくれた!
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