2012.10.10
『Les Saveurs du Palais』という映画がいま封切りになって話題を呼んでいる。直訳すると「大統領官邸の味」といった意味だが、これはミッテラン大統領が在任中にひとりの女性料理人を雇っていた話を映画化したもので、その料理人の名前はダニエル・デルペッシュさんという実在人物だ。
オータンス・ラボリは大の料理好き。おばあちゃんから習ったフォアグラやトリュフを使った郷土料理を見よう見まねで地元の村人たちに食べてもらおうと週末には腕を振るっている。そんな彼女が偶然にもジョエル・ロブションに出会ったことから彼女の人生には異変が起こる。それは大統領がプライベート料理を作ってくれる料理人を探している・・・とロブションに相談したところ、彼はオータンスを紹介したのだ。こうしてパリのエリゼ宮(大統領官邸)に迎え入れられた彼女ではあるが、しかし仏最高職人のタイトルを持つ官邸料理人との間ではトラブル続き、マッチョな料理人の世界ではひとりの素人女性料理人の肩身が狭いのは容易に想像がつく。ことごとく火花を散らす人間関係。「私はシンプルな料理が好き。フランスの大地で取れた真実のテロワールの味がするものを食べたい」そんな大統領自らの言葉に彼女は忠実に自分の料理を貫こうとするが・・・・。
実際にミッテランは最後は癌におかされていたからほとんど料理も喉を通らなかったといわれている。しかしフランスの郷土料理が大好きだった彼は、2年間この女性料理人を大切にしてプライベートの料理はすべて彼女に任せていたという。ムノンの言葉を引用する大統領「新しい料理の方法を発展させることに努めながらも私は料理の昔からのやり方を参考にすることを無駄だとは思わない。これこそ基礎になるものだから・・・」という言葉は重い。仏古典料理の本を紐解き、次から次へと出来上がる湯気のたちのぼった料理シーン、トーストにたっぷりとトリュフバターを塗った上にさらにトリュフをスライスしてのせてボルドーの赤ワインで食べるシーンなど、まさに垂涎ものだ。エリゼ宮の料理を通して見えてくる人間模様や料理に対する飽くなき執念など、まさにフランスならではの映画である。