2010.09.27

応援したいパリのシェフ、スヴェン!

料理との相性というのは、なかなか難しいものだ。その時のおなかの空き具合だったり、誰と食べるかによっても微妙に変わって来る。いくら自分が好きだと言っても一緒に行った人から「何、これ?!」なんて言われれば、ちょっと怯んでしまったりもする。でも、久々に「これって私の好み!」と堂々と思える料理に出会った。

彼はフランスのぺリゴールで生まれた弱冠23才のシェフ。2週間半前にお店をオープンしたばかりで、すでにオーナーシェフ。なんか北欧っぽい雰囲気を持っている人だな、といつも思っていたら両親がスウェーデン人だという。料理も純粋なフランス料理というよりもオランダ辺りで食べるフレンチという感じなのだ。(それがパリのフレンチとどう違うのか?と問われてもはっきりとは答えられないのだが・・・) バイキングのような髭をたくわえているけど目はとっても優しい。そして、よくよく見るとやっぱり若い。彼の名前はスヴェン・シャルティエという。

いまどきの若い料理人にありがちな、とてもファージーなタイプ。味もメリハリがきいていて「好きか嫌いか」がはっきりと別れるような類の料理ではない。日本人にもアメリカ人にもフランス人にも好かれるタイプ。要は国籍は問わずに野菜料理が大好きな人なら間違いなく誰もがファンになってしまう、そんな料理をつくる人だ。

アルページュやアルノー・ダギャンで修行した後、小さなワインビストロ「ラシーヌ」をオペラ界隈にオープンして、たちまちパリのグルメ批評家たちの目を引いた。客層はいたっておしゃれなインテリ層やボボ(=ブルジョア・ボエム)でいつも満席。彼が別の場所に移るのは時間の問題だと思っていたら、やっぱり今年の9月、新学期と同時に証券取引場のすぐ反対側にオープンした。その名も「サチュルヌ」、農耕の神様サトゥルヌスの意味。土星も意味する。

そうそう、3ツ星レストランのアルページュが漏電して店が火事になってしまった。丁度、モンゴルにバカンス中だったシェフのアラン・パッサールが真っ青になって飛んで帰って来てみたら、すでに従業員たちが全員慌てふためいて集結していたという。店は10月中旬まで改修工事のためにクローズされている。その間、といっちゃなんだが、スヴェンの料理を食べて、せめてもアルページュの野菜料理に考えを巡らせてほしい。決してアランには負けないだけの実力をすでに持つ若者の出現にびっくりされる筈である。

写真「グリルしたポロネギと牡蠣のソース」の一品は垂涎もの。笑顔がやさしいスヴェン。

vin et culture (2010.09.27)  |  未分類  | 

2010.09.27

ブルターニュ地方のレースの「ビグルダン」とイワシの缶詰

まわりを海に囲まれたブルターニュ地方では昔から漁業が盛んだ。なかでもイワシ漁は人々の生活をささえる大切な産業で、冷凍保存技術などなかった当時としてはイワシを油に漬けて缶詰にすることが唯一、長期保存の手段でもあった。誰でもが簡単に出来るとあって一時期は39000トンもの漁獲高を誇る重要な産業でもあった。しかし乱獲が原因で1902年から03年にかけてイワシはまったく獲れなくなってしまい人々の生活はどん底へ。そんな時に彼らの生活を救ったのがカギ針レースだった。

「ビグルダン」と呼ばれる女性の髪飾りは民族衣装としてとても美しい。もともとアイルランドから伝わったこのレースの技術は、たちまちブルターニュの女性たちをも魅了して広まっていった。たまたま週末に訪れたブルターニュ地方のポンラべという町では現在、市庁舎に併設されている美術館には1880年の最古のものから最近のものまで見事なまでの様々なビグルダンが陳列されている。また当時の生活を映像にしたドキュメンタリー映画では女性たちがビグルダンを頭にかぶって工場でイワシを剝いている姿や、どうやって頭に固定させるのかをひとつひとつ説明した映像が目を引く。まさに女たちにとってビクルダンは生活の一部なのだということが伝わって来る。

イワシの缶詰は今でもブルターニュの名産品としておみやげ屋さんの店先には背丈ほどに高く積まれた色とりどりの缶詰のパッケージが目を引く。レースとイワシの缶詰、思わぬところに人々の生活を救った歴史がいまでも誇り高く語りブルターニュ地方では語り継がれている。

 

     写真: 見事なカギ針レースの「ビグルダン」。イワシの缶詰工場で働く女たちは「ビグルダン」を被って作業している。イワシの缶詰を高く積み上げたショップで。

 

 

vin et culture (2010.09.27)  |  未分類  | 

2010.09.22

パリの大統領官邸、「エリゼ宮」の中身

10月18-19日の二日間、恒例のイベント『文化遺産公開の日』がフランス全国で一斉に行われた。普段見ることの出来ないモニュメントや公共の建物などが無料で一般公開されるとあって、今年は2日間で約1200万人の人たちが訪れて大変なにぎわいを見せていた。なかでも大統領官邸の「エリゼ宮」や「ヴェルサイユ宮殿」「上院議員会館」などは常にトップスリー、それに加えて今年は「リド」といった有名な老舗キャバレーの舞台裏も公開された。

「エリゼ宮」を是非とも一生に一度は見てみたいと、ちょっと早起きして朝、8時半に行ったところ、すでにその行列は延々とコンコルド広場からシャンゼリゼ大通りにまで伸びている。意を決して来たのだからとその列に並ぶこと延々8時間。結局、入口の門に辿り着いたのは午後4時半。「一生に一度!」を何度も自分に言い聞かせながら辛抱強く待ち続けた。持参した本も読破。それでもお天気が良かったせいか並んでいる人たちも愚痴ってる様子もない。「年金改革」の話やサルコジの批判、最近、発刊されたカーラ夫人のスキャンダル本・・・など、下世話な話題に事欠くことなく結構、盛り上がってる。こんなところにも連帯意識がはたらくフランス人というのも面白い民族だ。ただ、私のすぐ後ろにいたフランス人夫妻は「エリゼ宮」を一目見ようとわざわざ汽車に乗ってノルマンディーの地方都市からやって来た。「今晩の5時の汽車で戻る予定なんだけど!」と最初は笑顔だったのが次第に顔つきが曇っていく。結局、入口の門に辿り着いた時には時間切れ。8時間の行列は一体何のためだったのだろうか!!

  写真: 延々と長蛇の列が並ぶシャンゼリゼ大通り。エリゼ宮の食卓。サルコジ大統領の執務室。

vin et culture (2010.09.22)  |  未分類  | 

2010.09.19

冒涜か冒涜でないか、それが問題だ !ヴェルサイユ宮殿の村上隆展

フランスの絶対王政時代の象徴、ヴェルサイユ宮殿。ルーヴル美術館に並んで世界中の観光客がこぞって訪れるその宮殿で、今、村上隆の展覧会が開かれている。

『朕は国家なり』という有名な言葉を残した太陽王ルイ14世が最も自慢していた「鏡の間」の回廊には突然、マルチカラーの「フラワーボール・カイカイ・キキ」がドカンと遮り、また当代きっての庭師だったルノートルが設計した大庭園には「オヴァル・ブッダ」の金色に輝く5メートルものオブジェが太陽に反射している。きっとルイ14世が生存していたら「太陽は私か?それともお前か?」と慌てふためいたに違いない。

ところが・・・である。この村上の展覧会に今、賛否両論の嵐が吹きまくっている。”ベルサイユ・モナムール”と呼ばれる宮殿愛好家グループのひとりは「ムラカミの美意識なんかどうでもいい! ベルサイユ宮殿は神聖な場所。そこにマンガ文化を持ちこむなんて言語道断。恥を知れ! フランス文化の冒涜だ!」と鼻息荒い。一方、宮殿の館長でかつて文化大臣をしていたジャンジャック・アイヤゴン氏はそんな反対派など全く意に介さない。「国王ルイ14世は芸術・文化にとてもオープンで寛大だった。ベルサイユ宮殿が人々を幸せにしてくれる場所だと願っていた。ムラカミのオブジェもここを訪れる人たちをハッピーにさせてくれる、という意味では全く同じ意味をもっている。」

現代アートのアーチストとしては世界6番目の値が付いている村上隆の作品。ベルサイユ宮殿としてはむしろ、そんな彼の”金銭的価値感”で集客を狙っているのは誰の目にも明らかだ。一昨年はアメリカのアーチストのジェフ・クーンを、そして昨年はフランスのグザヴィエ・ヴェランと、アバンギャルド派のアーチストを招聘することでベルサイユ宮殿はイメージチェンジを図ろうとしている。

ルイ14世はバレエやスペクタクルを愛してやまなかった。フランスの王としてはかなりアバンギャルドな王様だったとも言われる。きっとムラカミがベルサイユに来てくれたことを知ったら一番歓迎しているのは、ひょっとしたらルイ14世その人本人ではないだろうか・・・・。

ベルサイユ宮殿に飾られている村上隆のオブジェ。新しいもの好きだったルイ14世が生きていたらきっと面白がったに違いない!

                                (写真 Le Parisien)

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  • 南谷桂子
    vinetculture@wanadoo.fr
    フランス在住
    株式会社ワインと文化社
    代表取締役・ディレクター

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