2011.06.29

「新しい公共」

社会貢献がこれほどまでに私たちの意識を変えてくれる世の中になったことが果たして歓迎されるべきことなのか、それとも政府がやるべきことをやらないで手をこまぬいているから、逆に私たちが強くたくましく社会のために何か役立たねばという気持ちにならざるを得なかったのか? いずれにせよ、もう政府にはよりかからず自分たちが新しい社会システムを創りだしていこうという空気は日本だけじゃなくて今、世界中に広がっている。

『社会連帯経済の現状』(Les Etats Gnereaux de l’Economie Sociale et Solidaire )という、ちょっといかめしい名の集会が先日3日間、パリの証券取引所の建物内で行われた。マイクロクレジットや発展途上国の救済のためのフェアトレード、商品の購入金額の一部がNPOの活動に寄付される”コーズ・マーケッティング”の商品を買うことなど、私たちのまわりには様々な形で社会貢献できるシステムがそろっている。”ジャルダン・ド・コカーニュ”という名前のNPOもそんな社会貢献のひとつだが、何度か私も日本のメディアでも紹介しているのでご存知の方もおられるだろう、社会的弱者を野菜や花づくりで社会復帰させようという取り組みを行っている。

DVの被害者やアルコール依存症、元受刑者など社会復帰が困難な人たちを自立させるには生活保護を支払うことよりも働くことの意義・責任感を取り戻させることからまず始めていかなければならないと思う。このジャルダンでは社会的弱者をカテゴリー別に分けるのではなく、全員がいっしょに同じ条件下で働くことを義務付けている。勿論、労働に対する対価は国が定める最低賃金を毎月支払い正規の労働者と同じ条件で彼らを働かせている。そして自分たちで住居を探し、社会保障も支払っている。それが自立を促す最大の手段だ。

農業という厳しく規則正しい生活と労働で、出来上がったた野菜や花は年間契約している地元住民のところに毎週一回、デリバリーされる。彼らも対価をきちんと支払って商品をうけとり、それを消費することによって社会的弱者の社会復帰の手助けになり、しかも地域経済を支えているという健全な連鎖反応、それがジャルダンが大成功している理由だ。フランス全国105ヶ所、約3000人近い人たちの雇用へと結びついている。

南仏プロバンスのアヴィニョンにあるジャルダンの所長、ジャック・プーリーさんはすらっとしたナイスガイ。トレードマークのハンチングを目深にかぶって精力的に活動を行っている。会場内の至る所に飾られている目にも鮮やかなブーケはすべてジャルダンが制作したものだ。「来年5月のカンヌ映画祭には是非とも会場を飾るブーケはジャルダンに任せてくれたら嬉しいですね!」 ハリウッドの映画スターたちの腕にジャルダンのブーケが飾られる日もそう遠くはなさそうだ。

写真 パリの証券取引所の会場には「人が人を支えている写真」がポスターになっている。所長のプーリーさんとジャルダンのブーケが会場内をかざる。

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2011.06.19

『鉄筋コンクリートの父』、オーギュスト・ペレの教会

取材でルアーヴルという街に行った。パリから車でおよそ2時間、フランス北西部、セーヌ川河口の大西洋に面した港湾都市でマルセイユに次いで2番目の貿易港だ。印象派の画家のモネが何枚も風景画を残しているからご存知の方も多いことだろう。ここは第二次世界大戦の”ノルマンディー作戦”で壊滅した都市で、その後、フランスのオ―ギュスト・ペレという建築家によって見事に復興した。彼は『鉄筋コンクリートの父』とも呼ばれており、このルアーヴルの再建に中心的役割を担った。

街の中心部にはペレ自身が建てた公団アパートが何軒か残っているが、その内装は「アトリエ・ペレ」と呼ばれる当時のアパートのモデルルームで見学することができる。しかし何と言っても圧巻なのはランドマークともいえる「サンジョセフ教会」の建物だ。なかに一歩入ると107メートルもある八角形の天井は4つの大きな柱でがっちりと支えられており、まるでモザイクをはめ込んだような幾何学模様の無数の小さな窓からは時間帯によって刻々と変化する色彩が洪水のように外光として入ってくる。その美しさといったら、もう感動的!ロマネスクやゴチック式教会を見なれている私たちには、こうした近代建築による教会というのはとても興味深い。

ペレは安価で造形性に富むコンクリートを石材よりも優れた材料であると言っていたが、ルアーヴルの街は大戦でほぼ壊滅状態だったのでコンクリートでゼロからのスタートを余儀なくされたのだろう。シンメトリーな街の構造にどっしりとしたモニュメンタリズムを思わせる頑強な建物は直線ラインが美しく、ギリシアのパンテノン宮殿や日本の桂離宮などにも負けないぐらいの圧倒的な”力”を感じさせてくれる。そんな彼の残した様々な建築物はルコルビュジエやグロピウスなどにも影響を与えている。しかし残念ながら、この教会が完成した時にはすでにペレは他界していたという。

ルアーヴルの街の見どころは他にもたくさんある。簡易建築であるプレハブやモデュ―ルの機能的な活用、そしてコンクリート構造の革新的な建造物など都市計画としても高い評価を受けて、2005年にはユネスコの世界遺産にも登録されている。街の復興は現在、日本の被災地でも大きな課題として着々と進められているが、海岸沿いの街という意味でも共通点がいくつかあげられる。街全体の外観・機能性・文化度・快適さなど、そこに住む人たちが誇れる街づくりになることは間違いないだろう。ルアーヴルの街で出会った人たちに「住み心地はいかがですか?」と質問すると、全員が間違いなく「ペレの都市計画の美しさは私たちの誇りです」という返事が返ってきた。

          

        写真  建築家オ―ギュスト・ペレによるルアーヴルの街の全景、「サンジョセフ教会」の美しい内観と外観

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  • 南谷桂子
    vinetculture@wanadoo.fr
    フランス在住
    株式会社ワインと文化社
    代表取締役・ディレクター

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