2016.03.30
昨年6月、滋賀県大津で行われた「ソーシャルファームジャパン琵琶湖サミット」のご縁で交流が始まった早稲田大学社会安全政策研究所(WIPSS)、そのミッションがパリ郊外にある『ジャルダン・ド・コカーニュ』を訪問した。WIPSSでは2015年4月から3年間にわたり「非行少年・犯罪者に対する就労支援システムの展開可能性に関する考察」と題する調査研究を行っている。農作業が社会的弱者の社会復帰や自立に役立つことは既に知られているが、このジャルダンの取り組みは政府の補助金支援策と並行して、一般市民が彼らの作る野菜を定期的に購入することで地域住民としてサポートしていることが成功の要因でもある。
「農畜産業従事者の高齢化、さらにはTPPの煽りを受け、わが国の農畜産業の行く末は大いに危ぶまれています。しかし他方で身体的・精神的な障害を抱えている人や矯正施設出所者など労働市場から締め出される傾向にある人びとの就労支援に携わっている機関や民間団体は農畜産業のこの劣勢を奇貨として、そこへの新規参入を図りつつあります。現にWIPSSの関係者のなかにも農畜産業におけるソーシャルファーム事業の開拓に乗り出そうとしている団体が二・三あります。」とWIPSSの団長であり、同大学法学学術院教授の石川 正興氏は結んでくれた。
ジャルダンの創始者でもあり、また経営者としても敏腕な熱血漢、ジャンギィ・ヘンケル氏はすでに3度の来日で日本でも様々な取り組みを行っているNPOや矯正施設を訪問している。国が違っても刑務所出所者に対する社会の風当たりはとても強い。しかし彼らを孤立させることよりも様々な問題を抱えている人同士を一緒に「ひとつに束ねること」で、社会の一員としての自立を促す方法に未来の可能性を模索している。
「差別のない多様性のある社会」――言うのは容易なことだが、昨今の一連のテロ事件以来フランスではますます人々の警戒心とか猜疑心といったものが増強しているように見受けられる。そんなネガティブな社会感情が広がらないことをただただ祈るばかりだが、その一方では政治・経済・司法と社会全体が一つの連帯感をもって社会的弱者を受け入れようとする、そんなポジティブで寛容性のある考え方が、今フランス全体では主流になりつつあるのを感じる。
写真 はるか後方に見えるのは19世紀に遡るベネディクト派、サンルイ・ドュ・タンプル修道院。その18haの農地を譲り受けてジャルダンは社会復帰を目指す人たちを労働力として野菜作りに励んでいる。WIPSSのミッションと記念撮影。中央がヘンケルさん、その隣にいるのはここのジャルダンの所長フレデリック・バタイヤールさん。