2013.07.22
いよいよ「花祭り」の当日、フレデリックに電話して「昨夜はよく眠れた?」と聞いてみると、「今朝は全員5時半に厨房に集合させた。ケータリングというのはあらゆる準備を早め早めの段階でやろうとする。肉の火入れも前日・付け合せのジャガイモも前日、とすべてを前日にやろうとする。しかし僕が普段やってるガストロノミーの世界ではキュイジーヌ・ア・ラ・ミニュット、できる限り食べる直前に作るのが当たり前の世界。勿論、1500名と30名の違いはあっても” 美味しいものを食べてもらおう “という気持ちには変わりないはず。だから僕はできる限り作業は当日にやろうと思った。」と、あっさり。
一方、ラグランジュの副会長、椎名敬一氏は雲と雲の切れ間から薄日が差してくるのを心配そうに見上げながらシャトーとVINEXPOの会場を往復している。この「花祭り」はボルドーで2年ごとに行われる国際ワイン見本市の最後を飾る最も盛大なワイン祭りだ。なかでも1500名の大晩餐会はワイン関係者のみならずボルドー市長をはじめ錚々たるスターをゲストに迎える。今年はアラン・ジュペ市長の隣には女優のキャロル・ブーケが 座った。そんな名誉ある晩餐会を主宰することはラグランジュが名実ともにボンタン騎士団からメドックワインを代表するにふさわしいシャトーであることが認められた証しだ。「挙手すれば誰でもがホストシャトーになれる訳ではありません。サントリーがオーナーになって今年で30年。その間の不断の努力・向上心・最新設備への投資などすべての面にわたって世界に誇れる” 最高級のワイン” を提供できることが認められたことです。この節目の年に花祭りが開催できたことをここから喜んでいます。」と満面の笑みをたたえている。
本番開始まであと数時間。写真で追っかけてみた。
写真上 : 「ボンタン騎士団」の着用する緋色のマント―がすでにラグランジュの会場に到着。セレモニーのはじまりを今かと待ちわびている。
日仏文化の融合をテーマに会場にはラグランジュの庭から伐採した竹を使った「生け花」が披露された。草月流師範としてパリで活躍する新井里佳さん、5日前から泊まり込みで渾身の作品を仕上げてくれた。
シャトーの前では地元のTV・新聞に加えて世界中のメディアが取材に駆け付けた。シャッターの音がひっきりなしに聞こえてくる。
1500名の招待客がやってくるとなるとセキュリティーも中途半端ではない。地元の警察・消防署・軍隊までもが出動して設営関係者と入念な打ち合わせが行われた。
晩餐会のサービスを行うソムリエたちは一足早くシャトーのセラー脇にある試飲室でデギュスタションを行っている。また地元のサービス係の男の子たちも、みんな飛び切り若くて今晩の晴れの舞台を楽しみにしている様子だ。
いよいよボンタン騎士団の重鎮がシャトーに登場。雨がポツリ・ポツリと降り出してきた!
アーチ型の天井が美しい樽熟庫は奥行108メートル・幅11メートル。3棟のうち2棟をメインダイニングに残りの1棟が厨房に変身。ケータリング会社「モンブラン」の料理スタッフに陣頭指揮するフレデリック、本気度満開 ! でもfacebookは欠かせない。ワイングラスを入念に磨くサービス係り、モニターをチェックする撮影チーム、マイクで音響も確認。会場内は否が応でも緊張が高まっていく。
厨房内で働く料理人集団のことをフランスでは” ブリガッド” と呼ぶ。これは軍隊で鍛え上げられた集団も同じように呼ばれる。一度、戦いがはじまれは私語は禁止。否が応でも軍曹の指示に従わざるを得ない。フレデリックも厨房で鍛え上げられたから今回セキュリティーでやってきた軍人たちとは意気投合。フレデリックが最も輝いている瞬間をカメラはキャッチした!
本番ぎりぎりまで仕込みが続く。前菜の「オマールエビのラビオリ」は会場に到着してから準備がはじまった。TVのインタビューに答えるフレデリック。サービスチームは160人。「アクセサリーは絶対に身に着けてはダメ。結婚指輪だけは例外。爪もきれいに磨いておくこと。私語は慎め。パニックを起こすな、冷静に判断しろ!」メートルドテルのひと言ひと言に全員がうなずく。壁には料理の写真が。細かい作業を要求するフレデリック、ガストロノミーを如何に1500名にサービスするかが問われたディナーだった。だから皿の盛り付けも間違いは許されない。
シャトーでは設営作業が急ピッチで進む。雲の切れ間から時々青空が。しかし雨天を想定して招待客をパーキングから会場まで運ぶカートまで出動した。適材適所、いろんな人たちが自分たちの役割をきっちりとこなしている。プロの仕事師たちの大勝利だ!!