2013.06.12
3日目、いよいよふたりのエンジンがヒートした。何を作ろうか? 昼は「お弁当」を主体にしたランチメニュー。普段、髙木さんのところでもお弁当は大好評だ。「通常、お弁当というものは冷たいものが詰まっています。でもレストランで食べるお弁当は熱いものは熱く、冷たいものは冷たくいただいてもらうのが基本です。」と髙木さん。フランス人に本当のお弁当文化を知ってもらいたいと普段お店で使っている髙木さん自らが特注した”五節句”をかたどった輪島塗の器をわざわざ神戸から運んできてくれた。その中に並べるお品は6品。夏トリュフの卵焼き・スモークしたチェリートマトのジュレ包み・バジリコを利かせたラングスティーヌエビの揚げ物・ミモザ卵・グリーンアスパラガスのゴマ豆腐仕立て・ポロねぎとトゥルトー蟹の巻もの。そして6月の風物詩はアジサイ。薄紫の花びらを散らして飾った。” カエル” もキュウリを型抜きしてちょこんと並べた。
「ここはフランスだからお弁当だけでは物足りない。魚と肉を各皿、デザートは必要だ。」とフレデリック。こうしてお弁当は前菜としてメインは「アンコウの白みそ漬け」(西京焼のような味わいはフランス人好みだと思う) とみりんと醤油でタレをつくって「鴨の炭火焼」に挑戦することになった。備長炭の炭火は長時間持続するのと熱がコンスタントに高いから厨房が煙たくならないと大好評だった。最終日にはまかないのソーセージも焼いていたぐらいだ!!
丁度このコラボを企画した一年半前、髙木さんの言った言葉を引用しよう。「シモナンさんと僕を通して文化を『受け継ぐ』『守る』『伝える』事を理解してもらえたら嬉しいです。」「お互いに佐名木孟氏やジョエル・ロブション氏といった師匠を大切にしていてクラシックな料理をしている共通点がありますから、今からどんな料理ができるか考えると本当に楽しみです。シモナンさんと一緒に漆の綺麗な蒔絵の入った弁当箱にそれぞれの料理を盛り込むなんて考えると、楽しみでしかたありません」。
フランス人スタッフ全員が髙木さんの一挙手一投足を眺めている。日本料理の技を体の隅から隅まで体得している髙木さん。手先の「器用さ」と「季節感を花で表現する」ことにスタッフたちは大いに刺激を受けている様子だ。丁度、料理研修中で髙木さんと同郷の神戸芦屋出身のショウコさんも、そんな髙木さんの姿に日本人として鼻高々に違いない。同じ厨房のなかで日本の食文化とフランスの食文化が自由自在に溶け合ってる雰囲気が「なんかいい感じ」感を作り出している。こうしてふたりの料理人が自分たちがやりたいことをやってみる。その自由な発想・ひらめきは何てステキなことだろうと、心から思った。
こうして出来上がったお昼のメニューを紹介しよう。
お弁当 手長海老みぢん粉揚げ アスパラ豆腐 蟹葱巻きハーブ添えトマト燻製のゼリー 玉子の味噌漬けミモザ見立 トリュフの出汁巻 蛙胡瓜
魚 あんこうの味噌漬け 柚子バター
肉 鴨炭火焼 味醂醤油 カシス そら豆 ピーツ添え
デザート ルバーブ 柘榴ゼリー 苺 メレンゲ フロマージュブランのアイス添え
『京料理 たか木』 〒659-0092 兵庫県芦屋市大原町12−8 電話:0797-34-8128
『Restaurant Frederic SIMONIN』 25, rue Bayen 75017 Paris 電話+33-1-45-74-74-74
輪島塗の器は普段、髙木さんが芦屋の店で使っているもの。長年、丁寧に磨かれたその漆の輝きはパリでも燦然と光を放っていた。サービススタッフもひとつひとつデリケートに取り扱っていた。
卵黄を一夜、白味噌に漬けておくと翌日は見事な橙色に変わる。そこに卵白・トリュフ・あさつきを細かく刻んで「ミモザ卵」に変身。フレデリックから教わったこのアイデアを高木さんは神戸の店でも実践している。
「メニューはこれでいい?」 18歳の時からいつもフレデリックと一緒のセカンドのウドに意見を求める。二番手という立ち位置から決してぶれないウドはフレデリックの強力な助っ人。そのふたりの間に髙木さんがいる。正三角形のすごくいい関係で厨房を仕切っていく。ふたりが出会ったきっかけともなった「ゴマ豆腐」は今が旬のグリーンアスパラガスのクーリ(ソース)とミックスさせてみた。とても美しい。
こんどはフレデリックの出番だ。ポロねぎとトゥルトー蟹のひと品はお弁当に入れる。ラップにくるんだポロねぎには出汁のジュレでしつかりとコーティングさせて固定する。それにトゥルトー蟹の磯の香りがしっかりとなじむ。そのフレッシュ感はいまの季節にぴったり。
コミに交じって髙木さんもそら豆のへたをむく。ここでは誰もが何でもこなすのがルール。直接コミに技術を教えてあげると彼らはまるで吸い取り紙が水を吸い込んでいくようにどんどん吸収していく。そのやり取りが印象的だ。フレデリックは出汁はカツオ節(髙木さんはマグロ節を使う)の味がすごくするから野菜はスモークしたものが合うと言う。チェリートマトをじっくりと鍋を使ってスモークさせて、それに出汁のジュレをしっかりとコーティングさせて冷ましてお弁当の中に色添えした。
トリュフ・ラングスティーヌエビ・モリーユ茸・・・とフランスの高級食材が並ぶ。そのわきで日本のお豆腐が大活躍。シノワで濾してみると独特の食感が生まれる。フランスでは乳を搾ってチーズを作るのが盛んだが、この豆腐の触感は”カイエ・ド・ブロビ”(雌羊のドロドロしたチーズ) と呼ばれるものに似ている。まぁ、大豆の植物性タンパク質か動物性たんぱく質かの違いはあるものの、どちらも体に良さそうだ!!
出汁まき卵はトリュフと相性が合う。日本から持参した卵焼き用フライパンを自由自在に使いこなす髙木さんにスタッフ全員が釘付け!! キュウリが瞬く間にカエルに変身していく姿に目を奪われるスタッフ。それだけじゃない。目の部分には黒ゴマを一粒ずつピンセットではめ込んでいく・・・。6月の風物詩を取り入れようとアジサイの花も。しーんとした静謐な時間が流れていく厨房は、まるでロブションの厨房さながらだ。
郷に入れば郷に従え。出汁も水道水でトライしてみた。案の定、混布を煮立てると白く石灰質が浮き上がってしまう。しかし、そこにかつお節を入れてみるとふわ~と石灰を吸い取ってくれる。見事な澄んだ出汁がとれることが判明。これでいこう! 髙木さんの号令で厨房が活気ずいた。
器用にお箸を使って盛り付けする髙木さん。黒・赤を基調としたリュバーブのデザートはとても日本的な盛り付けだ。こうして初日のランチは無事にサービスも滞りなく終了した。