2012.03.04
自然のもつ力って何て果てしないんだろう。土を耕し種を蒔き水をやる。その繰り返し。でも農作物をつくること以上に、そこでは様々なストーリーが生まれている。「こう天候不順じゃ作物の出来もおぼつかないな」「明日は晴れるかしら? ちょっと天気予報見てくるわ」「待って、私も一緒に行くから」・・・・。そんな会話が畑の中から聞こえてくる。普段は自分のことなんか絶対に誰かに話そうとなんかしない人たち。自分のことを自分の言葉で表現することを知らない人たち。でも話が農作物のことになるとみんな身を乗り出してくる。
社会的弱者が社会に復帰するのは並大抵のことじゃない。もうとっくに自分をあきらめてしまった人がもう一度再スタート地点に立つことは私やあなたが再出発するのとは訳が違う。しかし彼らの存在を知り、彼らの決断を少しでも理解してあげることは成熟社会を生きる私たちにとっての義務ではないだろうか?
そんな目的で『農と更生保護ネットワーク』が去る2月25日に発足された。
全国に点在している就業支援センターを「線」で結ぶことによって、それぞれが抱えている問題を共有し、解決策を一緒に探し当てていく。それは対話の社会、コミュニケーション力の向上でもある。それは何も社会的弱者だけの問題じゃない。私たちが住む社会全体の問題の解決策でもあると私は思う。
考えてみればフランスという移民社会に35年以上も住み続けてきた私は東京から来た「移民」の一人である。アフリカやアラブ諸国から来た移民と何ら変わりはない。マイノリティーという意味では彼らよりももっと少数派かもしれない。しかし、どんなつらい時にでも手を差し伸べてくれた人たちがいた。言葉がおぼつかなくて自分の意思が思うように相手に伝えられなかった時、それでも一生懸命に耳を傾けてくれた人たちがいた。そんな人たちに支えられながら、こうして長く海外の地で生きてこれたのは対話のもつ重みだった。自分とは価値観も風習も宗教観もまったく違う人たちと共生し、相手を理解することは社会の基本である。そんな基本を教えてくれたフランスという国から学んできたことを今、社会復帰を遂げようとしている人たちに少しでも役立てたら・・・・。それが私ができる唯一の社会への恩返しのような気がする。