2011.12.25
ロボットと人間が共生する超近代的な未来都市を描いたドイツの巨匠、フリッツ・ラング監督の超大作、『METROPOLIS』の映画展が今、パリのシネマテックで開催されている。この映画は映画史上稀な運命をたどっていることでも知られている。メトロポリスと呼ばれる超未来的国家では地上の楽園と地下の退廃的国家とふたつの構造に分かれており、ひとりの資本家が”効率”を目指して人間に代わるロボットを制作させたことにより、それに抵抗した労働者たちが反乱をおこすといった、まさに近代社会を痛烈に批判した内容だ。
特にこの映画の凄いところは、当時の映画技術やテクニックをはるかに超えたド迫力は今見ても微動だにもしないことだ。3台のカメラを据えてひとコマを撮影するのに毎秒24カットの映像を繋ぎ合わせているという。スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」とかリュック・ベッソンの「フィフス・エレメント」もこの映画から多大な影響を受けている。
またこの映画が物議をかもしたのは、1927年、この映画が封切られた当時、アメリカでは赤狩りの真っ最中、労働者の反乱を描いたこの映画はコミュニスト色が強いと上映禁止。また効率化とか近代化といったナチの台頭を思わせるその内容に世界中の批判が集中し、イタリアやフランスでも映画はずたずたにカットされてオリジナル版が日の目を見ることはもはやあり得ない状況に追い込まれていった。だから今まで「メトロポリス」と言えばはアメリカ版とかドイツ版・フランス版・・・といったように国によって内容が異なっていた。 しかし2008年にブエノスアイレス映画博物館で映画の最も核心的部分が発見されて、ほぼオリジナルと同じ形でフィルムは修復された。現在のフィルムの上映時間は153分だ。
それにしてももこの映画がゾクゾクするのは1925~6年当時に制作されたとはいえ、その超近代的な未来都市が今見てもまったく色あせていないことだ。監督自身が1924年にNYを訪ねて、その構想を練ったとされるが、それにしてもこの映画のディテールをつぶさに観察していても現代のCGに劣らぬほどの迫力がある。今だったらコンピューターで手軽に再現出来てしまえそうな映像も、ひとつひとつ人間が演じているのだ。 「25000人ものエキストラの中から4000人に頭を坊主刈りにしてとお願いしたら15000人がOKしてくれた。だから労働者の反乱シーンは15000人で撮影しました!」と、まさにアナログにすぐるものはない。
写真 『METROPOLIS』のポスター。建築家フランク・ゲーリーによるパリのシネマテックの外観。