2017.02.02
パリの名店「APICIUS」のシェフ、ジャンピエール・ヴィカ゛トさんがエネルギッシュに” テット・ド・ウ゛ォー” にナイフを入れる。その傍らのテーブルにずらっと並んだ紳士たちは「クラブ・デ・サン」(100人会) と呼ばれる大変クローズされた会のお歴々の方たち。そんな彼らの垂涎の一皿が、この仔牛の頭のがぶりつきなのである。
1793年1月21日10h22、フランス最後の国王ルイ16世がコンコルド広場で断頭台の露と消えた。1789年のフランス革命によって、それまでの絶対王政から立憲王政、そして共和制へと変貌を遂げたフランス、まさに市民が市民のために勝ちとった市民革命だともいえる。以来、今日までフランスは共和国として君臨している。
毎年、この日がやってくるとフランス全国の都市ではロワイヤリスト(王党派)とレパブリカン(共和党派)に分かれて、それぞれがそれぞれのの想いを抱いてその日を迎える。王室の象徴でもあるヴェルサイユ宮殿では盛大なミサが行われる。「王侯貴族こそが世界に誇れるフランスの宮廷文化を築き上げたというのに、なぜ国民によって裁きを受け、裁判にかけられ処刑されなくてはならないのか?」ジャケットの襟に王室のシンボルマークの白百合型のピンズをつけた青年が淋しそうな表情をしている。一方「自由・平等・博愛の精神こそが健全な市民の証し。こうして今、自由を謳歌できるのはフランス革命が起こったからこそ。ヴィヴ・ラ・フランス!」と、気勢を上げるのはジャーナリストや作家・哲学者などが一堂に会したテーブルだ。
そんな”仔牛の頭”を丸ごと煮込んだ古典フランス料理を口角泡を飛ばしながら食すのである。仔牛の頭こそ王党派の人たちを意味する”隠語”なのだ。
写真 シャンゼリゼ大通りの裏に堂々と建つ邸宅レストラン「APICIUS」、そのオーナーシェフのジャンピエール・ヴィカ゛トさんは、こうした古典料理をこつこつと作りあげては次世代の料理人たちに継承する。25人のサービス人と25人の料理人に支えられたこの名店は、まさに高級フランス料理の神髄を教えてくれる。「APICIUS」restaurant-apicius.com