2015.12.28
ナポレオン皇帝が料理にはまったく無関心だったことはよく知られている。食事に費やす時間は10分、15分、日本人にも負けず劣らずのせっかちと見受けられる。しかし彼はタレーランという超一流な外交官を配し、その見事なまでの美食外交でフランスの国益を守り通したといわれる。フランスでは歴代の大統領と料理は切っても切り離せない関係にある。理由は簡単。それはフランスは農業大国であり、テロワールと呼ぶ各地各様の産物を守ることは経済活動にもつながるというストレートな戦略だ。しかし、もっと本音を言えば選挙のためには農民の票が欠かせない・・・。毎年2月に行われる国家イベントの農業博覧会では大統領が先陣を切って乗り込んでいく姿が毎年TVで放映される。
では歴代の大統領の食欲がどんなものであったのだろうか?ドゴール将軍は戦時中、スープが毎回の食事には欠かせないものだったから国民食でもあるスープをこよなく愛していたという。質実剛健さで知られていた将軍、スープの大衆性をアピールしたかったのだろう。一方、同じスープでもジスカルデスタン大統領は「黒トリュフ入りVGE (ジスカルデスタンの頭文字) 風スープ」なるものをポール・ボキューズが彼のために特別に作り、今でも彼の店ではメニューに載っている。さすがに貴族出身の大統領だけあってスープも庶民とは一味違う。ミッテラン大統領は”国家秘密”として長いこと国民には知らされていなかったが、しかし公然の秘密として大統領に就任した当初から癌を患っていた。だから食べることにはあまり関心がなかったのかもしれない。その代わりに文化芸術には非常に寛大でグランルーブル計画のもとにガラスのピラミッドを作ったり新凱旋門・国立図書館など様々な建築を残していった。親日家としても知られていたシラック大統領はテット・ド・ウ゛ォーをはじめとするビストロ料理には目がなかった。歴代の大統領のなかでは最も健啖家だ。続くサルコジ大統領は料理にはあまり関心がなかったようで――何かとナポレオン皇帝と比較されていたが、公式晩餐会でもワインを省略したり食事時間を45分に短縮するなど農業大国の面目丸つぶれ。そして現在のオランド大統領。かつての”内縁の妻”がストイックなダイエットを彼に強いていただけに大好物のチーズを取り上げられていた。「チーズかデザートのいずれかにしなさい! 」という訳で、彼はしぶしぶチーズをあきらめざるを得なかったのだとか。しかし、そんな大統領のもとで現在外務大臣を務めるファビウス大臣は”ゴーシュ・キャビア” (社会主義という左翼人でありながら高級食材の代名詞”キャビア”を食らう人たちを揶揄する表現) の代表格で、フランス料理文化を世界中にアピールしようと自らが音頭をとって『LA LISTE』と名付けた次世代型グルメサイトの宣伝に余念がない。世界中の名店1,000軒を網羅したこのランキングガイド、エントリーした店数としては断トツに日本のレストランが最も多いという結果と相成ったのである。
アジア最果ての国で、これだけ世界中から注目される店が密集している国とは一体どんな国なんだろう? なんとなくミステリアスな期待感を抱かせるが、まさに観光立国として外国人を受け入れるには今が追い風なのではないだろうか!
写真 COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)の議長国フランスの代表を無事に終えた直後のファビウス大臣、翌日に控えているシリア問題を話し合う会議出席のためにNYKへ。当初予定していた外務省でのプレスコンフェレンスにはあいにくビデオ参加となってしまった。(写真 大澤隆)