2014.08.31
朝6時半、野尻湖の湖畔から眺めた景色。まるで真空状態の中に置かれた宇宙飛行士のように無重力な感覚。孤高の画家といわれたスイスのフェルディナント・ホドラー――19世紀後半、フランスのナビ派の影響を多分に受けた彼が描いていたような風景画を連想させてくれる光景に目を奪われる。目の前には、ただただ氷のように静まり返った湖面が、後ろに連なる山々の稜線だけを鏡のように映しだしている。時折、鳥の声だけが耳に聞こえてくる。こんな早起きな鳥とはいったい何鳥なのだろうか?日本にもこんな大自然が残っていたなんて! ふと安堵する。この辺りは早朝と昼間の温暖の差が激しいのだろうか。こうして時間が刻々と経つにつれて目の前の湖面には霧のように靄が立ち込めていく。幻想的な光景に、ついこの間、訪れたノルウェーのフィヨルドを思い出す。あのときも夏、ほんのわずかな夏の大切な太陽を人々は愛でていた。しかし、この日本では暑い日中とは打って変わって、ひやりとした冷気が辺り一面をグレートーンに包んでくれる。昨夜から降り続いた雨が早朝には止み、ほんの一瞬だけこんな幻想的な世界を創り出してくれた。何というしあわせだろう!
写真 野尻湖のガラスのような湖水に写る幻想的な風景。