2014.05.31
オーブンから焼きたてのパンが出来上がった瞬間、熱々のバゲットを籠に詰める作業にはコツがいる。「Keikoだったら日本人だから、そうだね、太平洋の海原で座禅を組んで集中している感じをイメージして、チャッチャッチャッと素早く手でつかむんだよ。床に落っことしちゃだめだよ!!」。パン職人歴25年のゴントランさんが丁寧に教えてくれる。それでも指先が熱い、熱くて持てない。おもむろにハンカチを取り出して、それに手をくるんで掴もうとすると転げ落ちるように笑う。元々エンジニアになりたくて勉強を始めたゴントランさんは、故郷のアフリカ、ガボンでのごたごたがあり勉学を断念せざるをえなかったという。あまり語りたがらないから、こちらも深くは突っ込まない。と、いうこともあるのだろうか、新米の私にも懇切丁寧に理路整然とパンの作り方を教えてくれる。とても陽気な人で、でもパンのこととなると一家言を持っている。そんな人を私はとても尊敬する。
我が家の近所のパン屋さん、かれこれ25年のお付き合いのあるジャンクロード・ルーロウさん。パリジャンらしく、ちょっとおしゃれな彼は、当時はほんの小さな一角でパン屋をはじめた。やがて隣の店も彼の店に。そして更にその隣りもサロン・ド・テに改装して大成功を収めた。昼・夕時ともなると外まで延々と人が列をなす。そう” 行列のできるパン屋さん” だ! そんなルーロウさんは早朝のレジを担当し、そのあとは奥様が引き継ぐ。夜までお客相手にパンを売り続けている。「一日15時間働いてもへっちゃらよ!」という彼女の言葉通り、本当によく働く。客のひとりひとりの名前を覚え、その客がどんなパンを好むかなども全部把握している。これぞプロ中のプロ。彼女は生粋のフランス人というよりはちょっと、どこかアラブ系の雰囲気が漂っている。でも買いに来る客には、そんなことはどうでもいい。おいしい熱々のパンが食べられるならそれで満足だ。地下の工房ではフランス人の職人たちに交じってガボン人や、あらたに日本人(!?)が手となり足となり働いている。まさに今のフランスを象徴する” ミクシテ・ソシアル”。雑多な人種が協働することの素晴らしさ!。今日もまた健全な汗を流しに行ってきま~す!
写真 パン職人のゴントランさん、「”トラディッション”は生地をこねた時のつなぎ目を上に向けて焼くこと。そうすると、そのつなぎ目が開いてパンが美味しそうに膨れるんだよ。そのラインが直線に近ければ近いほど美しい!」。こんがりと焼きあがったパン、これに勝るものはない。