2013.12.30
師走が誕生日の私はつくづく ” しあわせ者 “だと感じている。というのもフランスではクリスマスや大晦日のサンシルヴェストルと呼ばれる日は一年で一番の大ご馳走を食べる日。それに誕生日が加わるとなれば、もう12月だけでも3日間はスペシャルディナーにありつけるという訳だ。フランス料理が大好きな私としては、まさにそれは最高のプレゼント。ではそんな貴重な日には一体何を食べようか? いろいろと試案した末、親友の料理人フレデリック・シモナンに「リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル」を作ってもらうことにした。
リエーヴル(野兎) はジビエ料理のひとつだが下処理や準備に手間がかかるという理由で最近の料理人たちからは敬遠されていた。しかし、ここ数年前からシェフ仲間の間ではこの古典料理をどう解釈するか、現代風にアレンジするにはどうしたらよいか? などと見直され再びブームが到来している。レシピは大きく分けてふたつ。” ペリゴール風 “と呼ばれるものはフォアグラを詰め物にしたもので、もうひとつは”ポワトウ風”といって肉がドロドロになるまで煮込んだものだ。肉を柔らかくするためにリエーヴルの頭を銃で撃ち抜いたあと体内に血をキープしておく。それを赤ワインや赤ワインヴィネガーでマリネしたあと血を使ったソースで調理する。ではフレデリックのリエーヴルとは? 丁度そのふたつをミックスさせたものだから”シモナン風” とでも呼ぼうか。頭の先から尻尾まで骨抜きにしたあとフォアグラを詰め込みハーブやポルト酒、オリーヴオイルでマリネにする。もう一匹のリエーヴルの内臓を取り出して、それを更に詰める。こうして準備ができたリエーヴルを紐でしばり、88℃で約12時間火を通す。ソースもジビエのフォンと血を煮込んだものに最後一滴シャルトルーズ酒を隠し味に加える・・・。何とも手のかかった一皿だ。しかし彼はいとも簡単に「美味しいものを食べてもらうには、そんなことはへっちゃら」と軽く受け流す。
” ア・ラ・ロワイヤル “、すなわち” 王様風 “と名付けられているからには、やはりノーブルな一皿には違いない。ヴェルサイユ宮殿の主でもあった太陽王ことルイ14世 は大のリエーヴル好きで知られていた。ただ当時は歯ブラシというものが存在していなかったから、この王の歯は虫歯と歯槽膿漏でほとんど歯の機能をしていなかったといわれる。そんなことから王のために何時間も煮込んでドロドロに溶けるほど柔らかくしたリエーヴルを作ることは王の名にかけてもお抱え料理人にとっては至上命令だったのだろう。それがこの皿が誕生したいわれだ。
そんな古典料理を今こうしてニュージェネレーションシェフによって受け継がれ、新しい解釈で現代風によみがえらせる。フランス料理の底力というものを見せつけられた最高の誕生日を祝うことができたのだった。
写真 たった一本のろうそくがバースデーケーキを照らしてくれる。こってりしたリエーヴルのソースには柑橘系タルトの酸味がぴったり。フレデリックの皿には余分なものが一切ない。マカロニとトリュフ、このふたつがリエーヴルをより引き立たせてくれる。ミルフィーユ仕立てのチーズは雌羊のトム、パンデビスと抜群の相性だ。フレデリック、ご馳走さまでした!!