2013.12.09
世界に名だるフランスの宝石商「カルティエ」。1847年の創立から1970年代までの約600点のジュエリーを時代順・様式別に展示した展覧会がパリのグランパレで開催されているので観に行った。インドのマハラジャが注文したダイアモンドの首飾りやイギリス王室の27個のティアラ、中でもエリザベス女王の戴冠式のためのティアラや今回の展覧会のために女王自らがプライベートコレクションを数多く貸し出してくれたというエピソード まで、世界中のコレクションが宝石を通して社会ムーブメント・時代感・躍動の歴史といったものを感じさせてくれるとても貴重な展覧会だ。
なかでも特に目を引くのは「職人の手仕事」の精巧さだ。フランスという国がいかに職人の国であり、彼らの質の高い仕事を守り続けていくためには世界中の王室や金持ちとの交流・外交といったものを下支えに、いかにしたたかに生き伸びていくことを余儀なくされてきたか。そんなフランスの” 国策” といったものも垣間見れて興味深い。
カルチエはルイ・カルチエの時代から今日に至るまでファミリーカンパニー色が色濃く残っており、 途中” 豹 ” コレクションをデザインしたジャンヌ・トゥーサンというデザイナーはいたものの、そのデザインソースはあくまでもカルチエ一族による「カルチエ・スタイル」が底辺にあることが窺い知れる。そんな良き時代――19世紀は富みが労働者を守り続けていた時代だったからこそ、こうして後世に伝えられる芸術作品が今でも残っているのだろう。
そんな余韻を残しながら豊かな気分でグランパレを後にした。すると表通りではアフリカ人の集団が「アササン・アササン!」(人殺し) と気勢を上げているではないか。丁度アフリカ首脳会談がパリで開催されている最中だったが、コンゴ共和国の大統領が黒塗りの公用車で通過するや否やその集団は執拗に追っかけていく。本国では民族同士の殺戮が繰り返されている。540万人とも言われる民族の虐殺。19世紀のかつての繁栄の象徴もこうした植民地がもたらす富が下支えになっていた。しかし、そんな時代がもう今となってはずっと遠い昔のものであることを痛感した出来事だった。ネルソン・マンデラ元大統領死去の丁度、前日のことだった。
写真 「カルチエ」展の会場内。ダイアモンドをちりばめたティアラ、マハラジャが注文した大粒のイエロウダイアのネックレス、宝石以外にも時計や装飾品など常に時代の先端を行くファッションが人気を呼んでいる。