2013.10.21
『たくあん・牡丹亭』の女将、津野 塩さんはとてもチャーミングだ。粋に着こなした着物姿に割烹着、襟元をただし背筋をまっすぐに腰が低くいつも笑顔を絶やさない。今でこそ西新宿などという地名に変わってしまったけれど、かつては花街として知られていた十二社にひっそりとたたずむ料亭だ。ちょっと大正ロマンというか昭和チックな店のたたずまいはお座敷を中心に大小の個室が並んでいる。障子をすっとあけると牡丹の花を模った黒い時代物の南部鉄瓶が何気なく飾られていたり、襖には巨大な牡丹が描かれていたり・・と、ちょっと不思議な空間だ。
もともと塩さんのお母様は不動産がお好きで動物的嗅覚で店の良し悪しを即座に見分ける感覚をお持ちだとのこと。この店もお母様が惚れて即決したという。しかし店はすべてお嬢さんでもある塩さんに任せきり。そんな塩さんも18歳で上京してきて以来、見よう見まねで店を切り盛りしている。中でも極上黒毛和牛を使ったすき焼きは絶品だ。長ネギを丹念に肉の脂身とまぶし合わせながらグタグタになるまで火を通し、そこにすき焼きのタレを入れてさらに煮詰める。まるでフランス料理のフォンを作っているかのように、ゆっくりゆっくりと塩さんが手塩にかけてこってりとした甘いすき焼きに仕上がっていく。
日本ソムリエ協会認定のソムリエールの資格や日本酒サービス研究会・酒匠研究連合会認定の利酒師の資格もお持ちなのでワインや日本酒のセレクトも一家言をもっておられる。「いつもはフランスワインをお飲みだと思い今日はスペインのリオハの白ワインをお持ちいたしました!」と、そんな心遣いがうれしい。小唄もお得意でお客様が少ない日には三味線片手に披露してくれるそうだ。そんな塩さん、東京に住むフランス人の間でもとても慕われていてワインの試飲会なども時々ここで催されるのだとか。日本的でありながら世界中の人たちを感動させてくれるおもてなし。そんな貴重な店、それはまさに塩さんが放つオーラ以外の何物でもないような気がする。
写真 肝っ玉母さんのような太っ腹で寛大な津野 塩さん、彼女の作るすき焼きは絶品だ!!