2013.09.30
2011年3月11日、地響きとともに巨大な津波が東北地方の沿岸を襲った東日本大震災、福島県いわき市で1日平均40人ほどのフランス料理店「ベルクール」を経営していたオーナーシェフの萩春朋(はぎ・はるとも)さんはすべてを失った。あれから2年半、「またいつ震災が起こらないとも限らない。命と向き合うことを意識しながら、後悔しない生き方をしたい」。こうして店名も「Hagi(はぎ)」と変えて、一日一組限定の店を現在は妻のめぐみさんとふたりで営んでいる。食材もそれまでの大量仕入れを止めて顔の見える生産者から安全な食材だけを選んで料理をしているという。
そんな萩シェフが9月24日、パリの「マンダリンオリエンタル・ホテル」の総料理長で大の親日家でも知られるティエリー・マルクスさんと日仏の料理コラボを行った。これは『Club des Chefs des chefs』(クラブ・デ・シェフ・デ・シェフ=首脳の料理人クラブ)と呼ばれる世界各国の国家元首や王室などの専属料理長らで構成される料理人クラブの創設者であり会長のジル・ブラガールさんとNHKが協力して福島県の料理人や地元食材のバックアップを目的とした大プロジェクトのスタートを祝うイベントの一環だ。福島県産オリジナル米「天のつぶ」をはじめ、同県から持ち込んだ味噌や日本酒、また「川俣しゃも」と呼ばれる鶏肉は福島県の生産者がフランスのブレス鶏にあこがれて、その飼育法を研究して生み出されたもので、スモークした香ばしい香りの一皿はダシで炊き込んだ餅米の上に薄切りにしたわさびをベースにした和風味が美味しい。
福島県の若手料理人の中からコンクールを勝ち抜いた萩シェフは自らがが厳選する福島県産食材を持参しての渡仏となった。このイベントが終わった後は約一か月間、エリゼ宮やモナコ宮殿の厨房に入り福島産ブランド食材を使ったフランス料理を披露しながら大いにアピールすることになっている。
写真 左から「クラブ・デ・シェフ・デ・シェフ」のジル・ブラガールさん、萩春朋シェフ、ティエリー・マルクス総料理長、エリゼ宮の料理人のベルナール・ヴォシオさん。萩シェフによる「川俣しゃも」を使った創作料理はわさび味をきかせた最初のメインディッシュ。