2013.08.07
厨房の中からはじけるような笑顔ときびきびした緊張感が漂ってくる。平均年齢27歳、みんな目茶苦茶若い。盟友のドミニク・ブシェが日本に店を開きたいという願いはずっと前から知っていた。オーベルジュを計画したいとも言っていたが景気の悪化や震災でそのプロジェクトも暗礁に乗り上げてしまった。でもいよいよ7月下旬、満を持して銀座に『DOMINIQUE BOUCHET TOKYO』をオープンした。(ドミニク・ブシェの頭文字をとったロゴ「DB」が看板に使われている) まだプレオープンだったが、丁度帰国中の私はタイミングがぴったりと合いドミニクの笑顔もみたくて足を運んだ。
地下一階はラウンジ形式で壁には無数のワインやシャンパンがガラス越しに並べられている。夕方5時ぐらいから「グラス・シャンパン+タパス」でくつろいでもらう、いわゆる” アペリティフ文化 ” を日本に定着させたいという。蒸し暑い日本の夏にはシャンパンがとても合う。グッドアイデアだ! そしてもう一階、階段を下りていくと地下二階はメインダイニング。白い壁と木のぬくもりを基調にした店内は吹き抜けになっていて、その空間が何とも言えずに解放感を醸し出している。ドミニクらしいバランスのとれた食材、そして日本人にも全く違和感のないソフトな味付け、そして何と言っても「ロブション・ヘリテージュ」ともいうべく繊細な盛り付けはしっかりと継承されている。
ドミニクはパリのど真ん中にガストロノミーを基調とした珠玉のような小さなビストロや料理教室・知人・仲間とのプライベートな空間を意識したサロン、そして地元のサラリーマンたちのランチを一手にまかなう社食形式の店を経営している。そして今度の銀座でのオープンと、その長年のキャリアと知名度でしっかりと地に足の着いたビジネスを展開している。「自分が本当にやりたいことだけをやっている。自分の頭で考え、気持ちの通じ合えるるスタッフたちに囲まれて、大好きなお客様を満足させてあげる。その時・その時の社会の動きを敏感に感じとりながら一歩一歩時間をかけて進化していく。そんな自分の立ち位置に今、とても満足しています。」
パリの店には日本人の料理人がたくさん働いている。そしてパリからもサービススタッフが定期的に銀座を訪れては日本人客に満足のいくおもてなしを実践しようとしている。日本とフランスを「ドミニク・ブシェ」というひとつのベクトルで結んでいく。400年の歴史を持つトゥール・ダルジャンや昭和天皇も宿泊されたパリのホテル・ド・クリヨンの総料理長、故郷にオープンしたオーベルジュ、ムーラン・ド・マルクーズ・・・など時代を象徴する様々な最高のポジションを一つ一つ手に入れてきたドミニク。そんな中で育くんできた料理人としてのセンスや勘、そういったものを次世代の若い料理人たちと分かち合い実践しあいながら、また新しいドミニクの世界観を創りだそうとしている。そう、大好きな日本で、自分の店を核にしながら日本とフランス間を往復し同時進行でフランス料理界を変えていきたいと願っている。そんな人生を「しあわせ」という言葉以外で何と表現したらいいだろうか? ドミニクのキラキラと輝いている眼が、それを如実に語っている。
DOMINIQUE BOUCHET TOKYO
中央区銀座5-9-15 銀座満月堂ビルB1F/B2F tel: 03-5537-3290 www.dominique-bouchet.com
写真 日本の厨房の若いスタッフたちと、パリと東京の店を行ったり来たりさせて国際観を身につけさせたいとドミニクは言う。前菜はえんどう豆のヴルーテ、夏野菜のソテー、メインは甘鯛のポワレと牛の頬肉の煮込み、デセールはグランマルニエがしっかりときいたスフレ。