2013.06.11
2日目の午後、『山下農園』を訪ねた。バリから西南へ約30分、この農園は山下朝史さんという農家の方が日本の野菜だけを生産している。なかでも真っ白いカブはすでにフランス人の間でも「KABU de YAMASHITA」と珍重されている。当然、ひとつひとつ丹精込めて作っているから量も少ない。とびきり美味しいから料理人たちは欲しがる。そのジレンマに余計、山下さんのカブは「お株が上がる」! 幻のカブとまで言われる所以だ。しかし山下さんのカブを食すことができるのは3つ星レストランに行けるほんの一握りのお客様だけ。だからこそ、今回のふたりの料理コラボでは使わせていただきたいと思った。3人で、まずは表敬訪問しよう。私たちの料理に対する思いを伝えればきっと賛同してくれるかもしれない・・・。そんな希望を抱いてシャペ村にある農園を訪ねた。
「ウチの野菜はすでに畑で完結しているんです。だからとても力強い! そんじょそこいらの料理人では太刀打ちできない。」開口一番、強烈パンチをくらった。しかし、それにもめげず「料理人にとっては野菜は命。創作力を膨らませてくれる源流です!」と食らいついた。それじゃ、畑に行ってみましょう、ということになった。ビニールハウスの中にさらにビニールシートで覆われた畑の土は真っ黒でホカホカだった。そこから真っ白い、まん丸いカブを引き抜いてみせてくれた。見事なカブだった。辺り一面、まるで瞬間、オーラが漂ってくる感じがする。水につけてしばらく放置しておいた後、ふたりは口に入れた。まるで柿を食べた時のようなまろやかな食感。ほんのりと甘さが漂ってくる。” 畑ですでに完結してる “。その言葉の意味が分かった気がした。「おいしい野菜がすなわち良い野菜なんです。良い野菜が必ずしも美味しいとは限りません。」
では山下さんにとっての”おいしい野菜”の定義とは? 1)順調に育った野菜・ストレスはダメ 2)旬の間に収穫されたもの・はしりはダメ 3)鮮度と調理法の関係・口に入るまではこのふたつは上手に隔離して考えるべき(生で食べたり、厚く皮をむいて中だけを食べたり、周りの皮をソテーしたり・・・。日本では当たり前のことがフランス人はそれを知らない! ) 優等生的な良質なものがイコール人を感動させる美味しいものとは違う。そんな評価軸を山下さんは持っている。
考えてみれば日本とフランスの文化をハイブリッドしているのが山下さんの野菜だ。日本古来の品種でフランスの土地に根ずかせようとしている。手を変え品を変え、常に前に向かって新しいことにチャレンジしている。今回の私たちの料理コラボにも共通するスピリッツだ。ふたりが出会ったことによってお互いの料理の感性・ノウハウがハイブリッド化されてふたりの料理の水準が更に上がっていく。どんどん進化して完成されていく。まさに文化交流というものは一方的に発信するものではない。交じり合い、いっしょに息をしていくことで、またひとつの新しいものが誕生していく。山下さんと出会ったことで背中を押された。
30個のカブ、10本の人参、50枚のからし菜。山下さんのご厚意によって、それが私たちに許された量だった。とてもうれしかった。火曜日と金曜日に配達がある。
『京料理 たか木』 〒659-0092 兵庫県芦屋市大原町12−8 電話:0797-34-8128
『Restaurant Frederic SIMONIN』 25, rue Bayen 75017 Paris 電話+33-1-45-74-74-74
はじめて訪れた山下農園で。カブを口に含んだ瞬間のふたりの表情 ! 山下さんのひと言ひと言、力強いその言葉に勇気をもらった。” 料理フェアを絶対成功させよう! ”