2013.05.17
「フランス共産党本部」の白い半円形のドームは辺りを圧倒するほどのインパクトのある建物で有名だ。これを建築したのはブラジルの巨匠、オスカー・ニーマイヤーで、彼はブラジルが1960年代、軍事独裁政権一色のときヨーロッパに亡命していた。その時にフランスにもいくつかの建物を残しているが、これもその代表作の一つだ。まるで宇宙船が空から舞い降りてきたかのような丸いお椀みたいな建物、それは見ているだけでも胸がワクワクする。ニーマイヤーの時代を超えた美意識、そして60年代という時代の躍動感みたいなものが伝わってくる。
そんな建物内でいま『半世紀 を迎えるブラジルの首都』展が行われている。何もない荒涼としたブラジル高原にひとつの都市を作るという壮大なプロジェクト。「50年かけて作る未来都市を5年間で!」をスローガンに、実際には3年半の歳月で作り上げた人工都市だ。その建設をまかされたのが建築家のルシオ・コスタ、そして国会議事堂や行政庁舎など公共建築を手掛けたのがこのニーマイヤーだ。流れるような曲線、空に向かって腕を広げているような斬新なデザイン、モダニズムをベースにした意表を突く建物。そのひとつひとつが新しい時代に向かって何かを大きく主張している。
たくさんの労働者たちが鞄を抱えて仕事を求めてやってくる。その希望に満ちた笑顔、急ピッチで進められる建築現場の緊張感、そこには新しい首都ができるまでの間の人生の悲喜劇みたいなものが存在する。それをふたりのフランス人写真家、マルセル・ゴテロとジャン・マンゾンのフィルターが明確にとらえている。6000平方キロメートルにも及ぶとてつもない巨大都市を作りあげた当時の人たちのすさまじいパワーや情熱に、改めて人間の探究心や冒険に圧倒させられる思いがした。そんなことを呼び戻してくれる展覧会である。
- 白いドームの中はこんな感じ。コンフェレンスルームになっている。壁面をぴっちりと覆うメタル製のタイル、まるで宇宙船の中にいるような密室感が不思議な感覚を与えてくれる