2013.03.18
写真家でもあり作家の沢木耕太郎が最近上梓した『キャパの十字架』を読んだ直後ということもあるのだろうか、今パリで開催されている『メキシコの鞄――見つかったスペイン内戦のネガフィルム』展を観に行った。無名だったユダヤ系ハンガリー人の報道写真家、ロバート・キャパを一躍世界的に有名にした一枚の写真「崩れ落ちる兵士」。その写真が”偽物”であることはすでに欧米のキャパ研究家の間では公然の秘密とされていた。それを今回、沢木の著書では細かく検証している。大変、興味深い内容である。数多くのスペイン内戦の写真のなかで、なぜかこの一枚だけがオリジナルネガが見つかっていない。それもまたキャパの意図的な作為を感じる。
という訳でひょっとしたら”メキシコで見つかった彼の鞄の中からこの写真のネガが出てきたのではないか?” そんな期待感を抱いて展覧会に行ったのだが、やっぱり事実はそのネガは出てこなかった、である。しかし「崩れ落ちる兵士」が1936年9月5日に撮影されてライフ誌に掲載されたのが9月23日だから、そのあと1939年までキャパと彼の恋人ゲルダ・タロが本格的に生死をかけてスペイン内戦の現場を克明に写真に記録しているのが分かる。その写真が今回の展覧会では心に訴えるのである。その”真剣度”は「崩れ落ちる兵士」の比ではない。たとえふたりがその兵士の写真を意図的に仕掛けたものであったとしても、そのあとにふたりは戦争の第一線に命を懸けて人生を全うしようと誓ったのは間違いないだろう。そんな心意気のようなものを今回の展覧会では感じるのである。
人間誰しも最初は遊びのつもりでやったことが思いがけなく取り返しのつかいほど社会的に影響を与えてしまうことはある。その罪悪感を払拭するには、それを超える作品で償おうとするのは人間の性でもある。そういった意味ではキャパもタロもたった一枚の写真で人生を翻弄され、その後の人生が生半可なものではなかったことがうかがわれる。そんな人間の性といったものをこの展覧会は如実に語っている。