2013.02.20
パリのホテル・ブリストルの総料理長のエリック・フレションとは、かれこれ20年来のお付き合い。先日彼の厨房を訪ねた時のこと。「湯河原の我が家に久しぶりに帰ったとき、近くの魚屋でメバルを見つけた。あまりにも新鮮でおいしそうだったので自宅で炭火焼したんだけど焼く間際になって塩も醤油も調味料という調味料がまったく切れていることに気が付いた。だから何もかけずにそのままの状態で焼いて食べたら、これがまた飛び切りおいしかったのよね!」という話しをしていたら、彼もうんうんとうなずいて「それって料理人冥利に尽きるエピソードなんだ!」と返してくれた。
エリックも週末はノルマンディーの別荘で過ごすことが多いらしい。一本釣りのスズキなんかを塩を一振りしてグリルして食べるのが最高においしいという。そんな話から「セロリ―ラーヴ(根セロリ―)の粗塩蒸し焼き」を食べていかない? ・・・という流れとなった。シェフズテーブルに早速、席を設けてくれた。
“モナルク”という品種のセロリ―ラーブはココナッツのような美しい形をしている。それに粗塩でコーティングして蒸し焼きにしたものを熱々のところをカットして中の部分をスプーンで取り出すだけ。ちょっと栗のような甘い味がする。そこにさっと塩を一振り。ジュ・ド・トリュッフと塩バターを混ぜただけのソースをかけて最後は目の前でボフォールチーズをひとかけ。おまけに黒トリュフを惜しげもなくスライスしてくれる。これぞまさしく一流料理人の辿りついた『最高の一皿』だ。「シンプルなもので如何に人を感動させることが出来るか! それが料理人に突きつけられた最大のテーマだと彼は言う。
何のてらいもないエリック自らが目の前でサービスしてくれる最高の味。そんな贅沢に酔いしれながら”一流であることの意味”をセロリ―ラーヴと黒トリュフを食べながら反芻していたのだった。
写真 エリック・フレション自らがサービスしてくれた『セロリ―ラーブとボフォールチーズ& 黒トリュフ』の一皿。最高の素材の味がどういうものなのかを教えてくれる貴重な一皿だ。