2012.03.19

社会学者、ミュリエル・ジョリヴェさんの日本人若者論

 

『子供不足に悩む国、ニッポン』や『ニッポンの男たち』『Japon, la crise des modeles』など長く日本に住む外国人の目で、時にはシビアにまた時には愛情たっぷりと日本人を書いた多くの著書や日本のメディアでもおなじみのミュリエル・ジョリヴェさんが今年のパリの新書見本市「Salon du Livre 2012」に招待作家として招かれ、「東京の20歳とは」(Avoir 20 ans a Tokyo) と題したテーマで熱弁をふるった。他には『東京散歩』というイラスト本の作家、フローラン・シャヴエさんや地理学者で『アトラス・ドュ・ジャポン、フクシマ以後』の著者フィリップ・ベルチエさんも参加して対談形式で行われた。

「土井健朗による日本語の”甘え”という言葉は日本人の心理や日本社会を理解するうえではキーワードといわれ、西洋の言葉に置き換えるのはとても難しいと言われてきました。ならば私はそれをテーマに、ずっと日本の社会の中で甘えの構造を探し求めてみようとしてきました。特に80年代以降、日本人の意識の中に ”あなたたちは長いこと目いっぱい与えられ続けてきたのだから、今度は社会に還元する番ですよ”という考え方がどこかベースとしてある。たとえば色とりどりのロリータ風に身を包んでいた学生たちも学校を卒業し就職するときちんと髪を整え紺色のスーツに身を包む。まるで何事もなかったかのように社会の一員としてきっちり役目をこなしている・・・。」と、日本人の特殊性を西洋人の聴衆を前にして興味深く語ってくれる。「最近、居酒屋保育という言葉があって、出来ちゃった婚の総称としてのギャルママたちは群れて居酒屋で保育をする。この”群れる”という行動形態もとても日本的・・・。」と、もう次から次へと飛び出してくるあの”懐かしい日本語”に、ついつい周りのフランス人たちの様子をうかがいながらも、こちらも身を乗り出してしまう!

ジョリヴェ先生とはもう何年も前から懇意にしているのだが、帰国するたびに時々彼女の上智大学のゼミに出席させてもらっている。理由は今どきの日本の若者の実態をこの目で確かめたいからだ。みんなとても丁寧で明るくてお行儀がよくて、なによりも優しい! フランス人の言葉の暴力やアローガンな態度にちょっと辟易している私にとって日本人大学生がまぶしく感じられる。

そんな先生も最近とても心を痛めておられるのは日本でも不況による格差やワーキングプア、若者のホームレス化が広がってきている現実だ。かれこれ35年以上の年月を日本で暮らしている先生にとっても、こんな厳しい現実は初めてだという。きっと、また新たに彼女の日本人若者論に大きく影響を与えることだろう。早く次の新書が読んでみたい。

写真 「Salon du Livre 2012」の会場にて熱弁をふるうミュリエル・ジョリヴェさん。

vin et culture (2012.03.19)  |  未分類  | 

2012.03.15

日本料理とフレンチのコラボレーション

来週、ストラスブルグで行われるプロのための料理見本市「EGAST」でデモンストレーションをするために来仏された神戸の料理人、『京料理 たか木』のオーナーシェフの高木一雄さんがパリのフレデリック・シモナンさんの厨房をたずねた。昨年、初めて来日したシモナンさんは以来、大の親日家になってしまったが、滞在中から特に豆腐に興味を抱いていた様子。その話を高木さんにお伝えすると「では豆腐は豆腐、似て非なる”ゴマ豆腐” を指南しましょう」と相成ったのである。

当日は初対面とは思えないようなフレンドリーな雰囲気。「君の厨房だと思って自由に使ってもらって構わないよ!」というシモナンさんの言葉に高木さんもリラックス。昆布とカツブシの出汁をとるところからスタートした。高木さんは普段、神戸でも子供たちに出汁の味を知ってもらおうと小学校に出向いて食育のボランティアをやっている。一方、シモナンさんもパリの小学校で子供たちに様々な食材の味を知ってもらおうと積極的に活動している。そんな二人は3児の父親というところも同じ(しかも、二姫・一太郎も同じ! )  相似点の多い二人だけに息もぴったり。約一時間かけてのデモンストレーションは熱いうちに終了。

翌日、早速シモナン流一皿が出来上がり。「クロベット・グリーズと呼ばれる小エビにブラックラディッシュとシブレット、シソの葉っぱに黒ゴマという演出。もちろん出汁をブイヨンに見立てて温めてサービス」。こんな夢のようなコラボレーションがすぐに完成してしまう。やっぱり料理人の世界は言葉なんかいらないんだとつくづくと感じた。

写真  シモナンさんと高木さん、初対面とは思えない息の合ったコンビ。シモナン流「ゴマ豆腐」の一皿。

 

 

vin et culture (2012.03.15)  |  未分類  | 

2012.03.09

パリ・ジュネス炸裂 !!

パリ17区の我が家の自宅前には「リセ・カルノ」という公立の中・高校がある。元大統領のシラク氏の母校だけあって卒業生名簿にもそこそこの有名人の名を連ねる同区では進学率抜群のちょっとした名門校でもある。そんなリセのコスプレ・カーニバル「カルノ・パル」(これ、フランス流ダジャレ)に出くわした。

こんな力士ならちょっと格闘(!)してみたいカワイイ女子学生や、ゴス系ロリータ風、ドラキュラ系、ヴェニスのカーニバル風、顔を真っ黒く塗りつぶした穴居人やバンドデシネ(漫画)の主人公シュトロンフ・・・と、ちょっと意味不明な集団などなど、オリジナルなコスプレにみんなとても満足そう。「何でこんな恰好してるの?」って尋ねたら、学校恒例のコスプレカーニバルなんだとか。

それにしてもフランスのジュネス(若者)のパワーには圧倒させられる。世界一人件費の高いフランスではなかなか若者を正社員として雇うことは厳しいお国柄。”若者にも雇用のチャンスを!”と企業に呼びかけながらも、いつでも解雇できるちゃっかりシステムを提案した首相自らの制度に真っ向からノンを唱えた高校生たち。校門の前にバリケードを張り授業をボイコットするという強硬な手段に訴えて、とうとうこの制度を廃止させるところまで行動で示してしまった彼らたち。

最近26歳の社会学者、古市憲寿著の『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)を読んで目からうろこ状態の私だったが、日本の若者たちの「優しさ」に不気味さを覚えながらも、しかし一方では平和的に自分たちの主張を繰り返そうとする今どきの日本人特有の表現方法 (「諦めてる」という見方をする人もいるけれど) と、このフランスジュネスのように権利を手に入れるためなら徹底交戦も辞さない姿が対局的にオーバーラップする。

団塊の世代の高齢化社会を迎えている日本だから毎回、飛行機のタラップを降りるたびに「加齢臭」を感じるのも仕方ないことだが、それにしてもメディアも社会風潮も高齢者の声ばかりを取り上げていないで、もっともっと日本のジュネスに声を上げれる機会を作ってほしいと心から願っている。古市さん、頑張ってください!

写真  パリ17区「リセ・カルノ」のコスプレの若者たち。

vin et culture (2012.03.09)  |  未分類  | 

2012.03.07

次期、フランス大統領の顔 ?

次期、フランス大統領になるか? 社会党、フランソワ・オランド候補。( 写真 AFP )

 

5月の仏大統領選に向けて保守派で現職のサルコジ氏と対抗馬の社会党オランド氏との対決が半ば泥沼化している。国民も、ちょっとうんざりというのが本音だ。昨夜もサルコジ氏が国営放送のFRANCE2に生出演して「2007年の当選当時にはプライベートの問題もあって(セシリア夫人との離婚)シャンゼリゼの某有名レストランに友人を集めて派手なパーティーをやったり、その後も経済界の有力者のヨットでセレブな夏休みを過ごしたり・・・と自暴自棄的な行動に反省するところは多々ある。しかし今は幸せな家族に囲まれて心身ともに落ち着きを取戻し万全のコンディションで大統領選に臨んでいる。」と赤裸々に語った。(サルコジ氏は敏腕政治家として知られるが、時々こうして素顔を見せることがある!)

そんな大統領の姿勢を好むか好まざるかは意見が真っ二つに分かれるところだが、これぞとばかりにオランド氏が徹底的に叩きのめそうとするのもよくわかる。「プライベートのことに3時間もかけてしゃべる時間があるなら、もっとフランス国民のことを親身になって考えるべきだ! CAC40(上場している優良企業)の法人税を今頃になって見直しするなんて言い出すのはけしからん。2007年の時点ですでに実行すべきだった!」と攻撃姿勢を崩さない。

このオランド氏のかつてのパートナーがセゴレーヌ・ロワイヤル党首で(ふたりは事実婚で4人の子供がいる)、彼女は前回2007年の大統領選時にはサルコジ氏の対抗馬だった。しかし選挙に敗れてすぐにふたりは離婚。サルコジ氏も大統領就任直後に離婚という共和国始まって以来の椿事に日本人である私は大いに頭を悩ませたものだった。この国では政治家もプライベートを優先にするんだ(!!)と。だから今回のふたりの対決もなんか因縁のような気がする。

しかし最近の世論調査の結果(IPSOS)では大統領支持率はサルコジ氏が42%なのに対してオランド氏は58%とリードしている。サルコジ氏は国民にもっと働こうと鼓舞しているだけではなく、フランス経済を圧迫しているのは移民の増加による社会保障費の負担。それを減らすには移民自体を減らさなければならないと全くまっとうな事を言っている。ちなみに先日、あるパリのレストランのオーナーシェフに聞いた話なのだが、彼のところでは皿洗いを担当するセネガル人をひとり雇っている。しかしこの不況で人件費を削らないとやっていけないので日頃懇意にしている別の店のオーナーに頼んで「もっと条件のいい職場があるからそちらに転職するように」とアドバイスした。するとセネガル人はこう言ったという。「いいえ、ほかの店にはいきたくない。私を解雇してください。そうすれば失業保険がもらえるから。そうしたら家族を連れて自国に帰ります。」

まるで嘘のような本当の話だがフランスは高福祉大国・人権大国になりすぎてしまった。そのツケを払わせられているのは税金を払っている国民自身だ。ちなみにオランド氏は「私が大統領になったら100万ユーロ以上の高所得者には75%の所得税を課す」と豪語している。フランスがユートピアの道を突き進むのは構わないけど、でも、あまりにも現在の世界同時不況からみても現実離れし過ぎている気がするのだが。

 

vin et culture (2012.03.07)  |  未分類  | 

2012.03.04

『農と更生保護ネットワーク』スタートに寄せて

2012年2月25日に発足した『農と更生保護ネットワーク』の初会合にて。 ( 写真 全国就労支援事業者機構 )

自然のもつ力って何て果てしないんだろう。土を耕し種を蒔き水をやる。その繰り返し。でも農作物をつくること以上に、そこでは様々なストーリーが生まれている。「こう天候不順じゃ作物の出来もおぼつかないな」「明日は晴れるかしら? ちょっと天気予報見てくるわ」「待って、私も一緒に行くから」・・・・。そんな会話が畑の中から聞こえてくる。普段は自分のことなんか絶対に誰かに話そうとなんかしない人たち。自分のことを自分の言葉で表現することを知らない人たち。でも話が農作物のことになるとみんな身を乗り出してくる。

社会的弱者が社会に復帰するのは並大抵のことじゃない。もうとっくに自分をあきらめてしまった人がもう一度再スタート地点に立つことは私やあなたが再出発するのとは訳が違う。しかし彼らの存在を知り、彼らの決断を少しでも理解してあげることは成熟社会を生きる私たちにとっての義務ではないだろうか?

そんな目的で『農と更生保護ネットワーク』が去る2月25日に発足された。

全国に点在している就業支援センターを「線」で結ぶことによって、それぞれが抱えている問題を共有し、解決策を一緒に探し当てていく。それは対話の社会、コミュニケーション力の向上でもある。それは何も社会的弱者だけの問題じゃない。私たちが住む社会全体の問題の解決策でもあると私は思う。

考えてみればフランスという移民社会に35年以上も住み続けてきた私は東京から来た「移民」の一人である。アフリカやアラブ諸国から来た移民と何ら変わりはない。マイノリティーという意味では彼らよりももっと少数派かもしれない。しかし、どんなつらい時にでも手を差し伸べてくれた人たちがいた。言葉がおぼつかなくて自分の意思が思うように相手に伝えられなかった時、それでも一生懸命に耳を傾けてくれた人たちがいた。そんな人たちに支えられながら、こうして長く海外の地で生きてこれたのは対話のもつ重みだった。自分とは価値観も風習も宗教観もまったく違う人たちと共生し、相手を理解することは社会の基本である。そんな基本を教えてくれたフランスという国から学んできたことを今、社会復帰を遂げようとしている人たちに少しでも役立てたら・・・・。それが私ができる唯一の社会への恩返しのような気がする。

 

 

 

 

 

vin et culture (2012.03.04)  |  未分類  | 

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  • 南谷桂子
    vinetculture@wanadoo.fr
    フランス在住
    株式会社ワインと文化社
    代表取締役・ディレクター

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