2011.11.02
旅の楽しみは何と言っても、その土地のひとたちの温かいもてなしに触れられる事に尽きると私は常々思っている。昨年の『白トリュフ祭り』の時に訪れた「Trattoria Del Peso」には今年も絶対に行きたいと思った。それはモーロの美味しい家庭料理が食べられるからだけではない。そこには”イタリア式、生きる喜び”があるからだ。心の底から、もう一度絶対に訪れたいと願っていた。
イタリア・アクセントのフランス語で軽快にしゃべるモーロは、とても優しい。創業1912年から続く家業の旅籠を継いで、いまでは家長として立派に役をこなしている。なかでも今年85歳を迎えるマンマの、あのしっかりとした足腰・明晰な頭脳、そして何よりもあの優しい笑顔はモーロがしっかりと受け継いでいる。
街道沿いにあるこの店は周囲はワイナリーに囲まれた風光明媚なところで、車で旅している人たちが美味しいものを食べようとふらりと立ち寄ってみたものの、そのおまりの美味しさとワインで酔いがまわり一泊していきたいという時に使えるような旅籠だ。地元の人たちにとっては生命線でもある「よろずや」(今で言うところのコンビニ)としての機能も果たしている。たばこや家庭的なお惣菜・季節になれば白・黒トリュフも売っている。またバールもある。それを任されているのが、このマンマだ。モーロが接客している間、後ろで商品を袋に詰めたりコーヒーカップを洗ったりしている。きちんとした「役目」を果たしているからこそマンマが若くいられる秘訣なのだろう。
こうしたモーロの家族への思いやりが国境を越えて私たちにも伝わってくるのは、やっぱり家族がいつまでも元気でいてくれるためには、その活力の源は自分の「役割」を与えられているからなのだろう。それをモーロはしっかりと心得ていて、それが最高の親孝行だということを実践していることだ。これもまたスローフードな旅の最高の収穫であったような気がする。
写真 「Trattoria Del Peso」のバルコニーから笑顔のモーロ。特別に白トリュフでもてなしてくれた極上のトウモロコシのポタージュ。今年で85才を迎えるモーロのマンマ、こぼれんばかりの笑顔はファミリーのトレードマーク。