2011.07.23
「マダム・グレ」の名前を知ってる人はそう多くはいないかもしれない。しかしオーククチュールの世界ではバレンシアガやサンローラン、ジヴァンシーと並ぶ偉大なるクチュリエールだ。トレードマークの頭に巻いたターバン、きりっとした眼差し、”エレガンス”という言葉がこれほどまでに似合う女性を私は他には知らない。
78年頃、私はサンディカと呼ばれるパリのオーククチュール学校で学んでいた時期がある。マダム・グレは当時まだ健在で、時々学校にやって来ては私たちのような学生にも惜しまずにデモンストレーションをしてくれる。トワルと呼ばれる薄い布をジョリジョリと大きなハサミで切り落とし、その布をマヌカン(ボディーのこと)にどんどん巻きつけて美しく斜めにカーブさせたり無数にドレープさせたりと、その見事な手さばきはもう神業としかいいようのないものであった。オートクチュールというものがまだ世界的に絶賛されていた時代だった。
マリアノ・フォルチュニーやマドレーヌ・ヴィオネといった20世紀を代表するファッションデザイナーたちもプリーツやドレープをテーマにして服を創ってきた。その流れを受け継いでいるのがマダム・グレといってもいい。「私は彫刻家になりたかった。しかし布であろうと石であろうと、それは私にとっては同じもの。」 そんな彼女の言葉にならってか、パリのブールデル美術館では現在『マダム・グレ クチュールの作品』展が開催されている。会場内にはブールデルの力強い彫刻の脇に、ふわりとしたシックでデリケートなドレープのドレスが色とりどりに飾られている。彫刻家とファッションデザイナー、ふたりの偉大なる才能がぶつかり合いながら、その対比は見事だ。素晴らしい展覧会である。
写真 パリのブールデル美術館を舞台に、マダム・グレのオートクチュールの世界が広がる