2010.09.27
まわりを海に囲まれたブルターニュ地方では昔から漁業が盛んだ。なかでもイワシ漁は人々の生活をささえる大切な産業で、冷凍保存技術などなかった当時としてはイワシを油に漬けて缶詰にすることが唯一、長期保存の手段でもあった。誰でもが簡単に出来るとあって一時期は39000トンもの漁獲高を誇る重要な産業でもあった。しかし乱獲が原因で1902年から03年にかけてイワシはまったく獲れなくなってしまい人々の生活はどん底へ。そんな時に彼らの生活を救ったのがカギ針レースだった。
「ビグルダン」と呼ばれる女性の髪飾りは民族衣装としてとても美しい。もともとアイルランドから伝わったこのレースの技術は、たちまちブルターニュの女性たちをも魅了して広まっていった。たまたま週末に訪れたブルターニュ地方のポンラべという町では現在、市庁舎に併設されている美術館には1880年の最古のものから最近のものまで見事なまでの様々なビグルダンが陳列されている。また当時の生活を映像にしたドキュメンタリー映画では女性たちがビグルダンを頭にかぶって工場でイワシを剝いている姿や、どうやって頭に固定させるのかをひとつひとつ説明した映像が目を引く。まさに女たちにとってビクルダンは生活の一部なのだということが伝わって来る。
イワシの缶詰は今でもブルターニュの名産品としておみやげ屋さんの店先には背丈ほどに高く積まれた色とりどりの缶詰のパッケージが目を引く。レースとイワシの缶詰、思わぬところに人々の生活を救った歴史がいまでも誇り高く語りブルターニュ地方では語り継がれている。
写真: 見事なカギ針レースの「ビグルダン」。イワシの缶詰工場で働く女たちは「ビグルダン」を被って作業している。イワシの缶詰を高く積み上げたショップで。