2010.06.05
1945年といえば第二次世界大戦が終焉した年。こんな年にもワインを作っていた人がいただけでも驚くべきことだが、そんなヴィンテージワインを飲む機会に恵まれた私も一生に一度の驚くべき出来事だった!しかも、この年はブドウの出来も最高だったという。まさに夢のような試飲会に酔いしれたひと時だった。
フランスのロワール地方は「ロワールの城巡り」でも有名な観光名所だが、その一角にソムュール・シャンピニーという赤ワインで有名な産地がある。”シャトー・ド・ヴィルヌーヴ”の現在のオーナー、シュヴァリエさんのお父様が当時、ナチのSSには絶対に飲ませたくないと自宅のセラーの壁を土と黴で覆って守ったと言う、まさに命がけのワインだ。そのおかげで残り少ない貴重なボトルを一本開けてくださった。勿論、赤ワインは文字通り素晴らしいモノだったが、「とっておきの一本」と前置きして飲ませてくださったのはなんと白ワインだった。
その透き通った輝きは琥珀色に変わっている、グラスに鼻を近ずけるとほんのりと果実の香りがする。口に含むと適度な糖分とロワール独特の酸味がほどよく溶け合ったそれは、まさに「神の雫」。ワインというよりもネクターといったほうがいい。白ワインといえば若いうちに飲むもの、そんな「常識」がまかり通っているが、それはとんでもない間違いだ。「この場所でとれたブドウをここで発酵させて醸造させ一度も動かさなかったことがこれだけのワインに成長できた理由かも知れません。」 そうシュバリエさんは言う。
”可愛い子には旅させよ”なんて言うけれど、イヤイヤ、旅なんかさせなくても、ひたすら地元で頑張って世界にたった一つしかない自分だけのものを作ってみる。それが案外、世界に通用するものだということを、このシュバリエさんの一本は証明して見せてくれたような気がする。
(写真 現オーナーのシュバリエさん。1945年のボトルには黴が、琥珀色のワイン)