2010.05.11
あるアンケートによれば日本人に最も人気がある世界文化遺産といえばフランス西海岸のモンサンミシェルなのだそうだ。そんな予想通り先日取材で訪れた時も、まるで江ノ島にいるかと錯覚するぐらい日本人観光客ばかりだった。ここは潮の干満の差が15メートルもあり、満ち潮の時には修道院がある島がすっぽりと、まるで海の中に浮かんでいるように見える。これがまた我々日本人には神秘的でたまらないのだろう。とくに満月と新月の時には大潮になリ、その速度が尋常じゃないぐらいに早い。干潮のときには海が18kmぐらい引くから、むき出しになった砂浜でゆったりと散歩なんかしようものなら突然、猛烈な勢いで波が押し寄せてくる。そんな様を想像してほしい。いくら走たって逃げようがない。かつて巡礼で訪れていた人たちが何人も潮に呑まれて命を失ったという。そんなストーリーも日本人の想像力をかき立ててくれるには充分なのだろう。人気スポットなのがよく分かる。今でも島の入り口には干満時刻が表示されて観光客に注意を促している。
しかし、そんなモンサンミシェルにいま危機が訪れている。
まだ環境保全などと騒がれていなかった時代に、ひとりでも多くの観光客を誘致しようと島と対岸の陸地との間に自動車道路を作ってしまったのだ。それによって潮の流れが完全に遮られて堆積物がどんどんたまってしまった。その結果、大潮の時も海が流れ込まなくなってしまったのだ。もう海に浮かぶモンサンミシェルも見れなくなってしまうのだろうか?! そんなことが起これば観光収入も減ってしまうと、国と自治体は有識者を交えてかつてのような海洋環境を再現しようと工事を計画した。工事は2005年からスタートして2015年に完了する予定だ。しかし、たまった堆積物を取り除くにはかなり大掛かりな仕掛けが必要だ。ここを流れるクエノン川という川にダムを作り、その水流の勢いで堆積物を押し流すのだそうだ。そんな工事の模様が逐一とサイトで見られるから興味のある方はどうぞ、ここをクリックして下さい。www.projetmontsaintmichel.fr
歴史的モニュメントと最新テクノロジーの融合。世界中の人たちに環境の大切さを知ってもらう、またとないチャンスだ。それはまたユネスコの世界文化遺産に登録されるということの最大のメリットなのかもしれない。それを十二分意識したモンサンミシェルの取り組みは、まさにフランス人らしいプラグマティズムで自国をアピールするのに多いに役立っているようだ。
(写真 クエノン川から見た夜景 モンサンミシェルの全景 )